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  3. 面接の際、経歴を詐称して入社した社員がいるのですが、この社員との雇用契約を取り消すことはできるのでしょうか。
2026/09/26
その他(労務関連)

面接の際、経歴を詐称して入社した社員がいるのですが、この社員との雇用契約を取り消すことはできるのでしょうか。




 採用面接の際、前職では管理職をしていた、この業務について10年の経験があるなどと説明していた社員について、入社後、それが事実ではなかったことが判明することって実際あります。その場合、会社としてまず考えるのは普通解雇又は懲戒解雇でしょう。もう一つ、ご質問にあるように、本当の経歴を知っていれば採用しなかったのだから、そもそも雇用契約自体を錯誤を理由に取り消せないのかという方法も考えられなくはないです。



 現在の民法95条1項は、錯誤を大きく二つに分けていて、一つは、意思表示に対応する意思を欠く錯誤、もう一つが、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)です。経歴について誤った認識を前提として会社が採用したケースでは、通常は後者が問題になり、取消しが認められるためには、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである必要があります。例えば、経理責任者として採用するため、上場会社で10年間経理業務に従事していたという経歴を重視して採用したところ、実際には経理経験がほとんどなかったような場合、会社がその事実を知っていれば採用しなかったといえるのであれば、採用意思の形成に重要な錯誤があったと評価できる(取り消し身が認められる)可能性はあります。反対に、履歴書に記載された勤務期間が数か月違っていたという程度で、その職歴が採用条件でもなく、実際の担当業務ともほとんど関係がなかったとすれば、取消しまでは認められない可能性が高いでしょう。




 どちらにしても、錯誤による取消しを認めてもらうためには、その事情が法律行為の基礎とされていることが相手方に表示されていたことが必要になります。例えば求人票に、経理実務経験5年以上と明記し、面接でもその経験について詳しく質問していたのであれば、会社がその経験を採用判断の基礎としていることは応募者にも分かります。これに対し、会社内部では特定の経歴を重視していたものの、それを募集要項にも示さず、面接でも確認していなかったのであれば、その事情が法律行為の基礎をされていることが表示されていたとは評価できないので、後になってから、その経歴が採用の決定的条件だったなどと主張しても、錯誤取消しを認めてもらうことは難しいでしょう。





 錯誤取消しと解雇でなにが違うのかというと、解雇は、有効に成立した労働契約を使用者が一方的に将来に向かって終了させるものなのに対し、錯誤取消しは、契約締結時の意思形成に問題があったことを理由として、採用の意思表示そのものの効力を覆す(初めから無効であったものとみなされる)という点です。すでに長期間勤務している社員の場合、仮に取消しによって契約が無効とされた場合、会社は社員からすでに労務の提供を受けていて、過去の労働を社員に返すことはできません。このような継続的契約としての特殊性もあるので、入社から相当期間が経過しているような場合、錯誤取消しで労働関係を処理しようとすることには、実務上はかなり慎重な検討が必要となります。






 解雇では労働契約法16条による合理性・相当性の審査を受けるのに対し、取消しなら民法95条の問題として処理されるので、会社側からみれば、錯誤取消しは一見魅力的にうつるでしょう。たしかに、法的には両者は別物なので、錯誤取消しに労働契約法16条の解雇規制が直接適用されることはありません。だからといって、錯誤取消しさえしてしまえば、解雇規制の趣旨を回避できると安易に考えるのは禁物です。詐欺取消しの場合、本当に採用判断の基礎となった事情についての錯誤なのか、その錯誤は社会通念上重要なものなのか、その事情を採用の基礎とすることが応募者にも表示されていたのか、会社側に重大な過失はなかったのかなどといった要件を具体的に検討する必要があります。




 立証面でも、錯誤取消しの方が、会社にとっても必ずしも有利になるとは限りません。錯誤取消しを主張する場合、経歴が間違っていただけではなく、会社はその経歴をこのように認識し、それを重要な前提として採用し、真実を知っていれば採用しなかったという採用時の意思決定過程を説明する必要があります。そのため、求人票に必要な経験や資格を明記し、面接評価表にその確認結果を記録し、採用決裁でも、なぜこの人を採用したのかをある程度残しておくことが重要となりますが、採用から何年も経過していれば、当時の担当者が異動・退職していたり、面接記録が残っていなかったりすることもあるでしょう。錯誤取消し、普通解雇、懲戒解雇は法的構成こそ異なりますが、いずれの場面でも結局問われるのは、経歴の相違が採用と雇用関係にとってどれほど重大だったのかということです。会社が経歴詐称に備えて整備すべきことは、会社は何を採用条件とし、なぜその条件を重視しているのかを採用段階から明確にして、その記録を残しておくことであることは変わりません。


令和8年9月26日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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