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会社の電話対応だけを担当する事務員がいるとして、その従業員は、電話が鳴れば応対しますが、電話が鳴らない間は、特に仕事をする必要がないような場合、1日8時間勤務していても、実際に電話対応をしている時間は合計1時間程度という場合、このような従業員についても、通常の事務員と同じように休憩を与えたりしないといけないのかという疑問だと思います。
労働基準法32条は、原則として1日8時間、週40時間を超えて労働させることを禁止していて、同法34条は休憩時間、35条は休日について定めています。すべての労働者にこれらの規制を一律に適用することが合理的とは限らないことから、労働基準法41条3号は、監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたものについては、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を除外しています。この場合の断続的労働とは、実際の作業が継続的に行われるのではなく、作業と手待ち時間が交互に繰り返されるような労働のことをいいます。行政解釈では、休憩時間は少ないものの手待ち時間が多く、実作業時間が少ない労働が想定されていて、例えば、普段は仕事がなく、設備の故障が発生した場合に修繕作業を行う従業員などが典型例です。このような労働では、長時間職場に拘束されていたとしても、実際に作業している時間は短く、通常の労働と比較して身体的・精神的な負担が小さい場合があるので、一定の条件のもとで労働時間規制の適用を除外することが認められているのです。
では、電話対応だけを担当する事務員はどうでしょう。例えば、電話が1時間に数回程度しか鳴らず、1回の対応も数分で終了し、それ以外の時間は電話が鳴るのを待っているだけで、電話が鳴らない間に、清掃や書類作成、データ入力などの仕事をする必要もない(ひたすらスマホを見ている)のであれば、実作業時間よりも手待ち時間の方が相当長いと考えられます。このような勤務実態であれば、断続的労働に該当する余地があるかもしれませんが、電話が鳴っていない時間が、すべて負担の少ない手待ち時間とは限りません。例えば、顧客からの問い合わせに即座に対応しなければならず、常に電話に神経を集中させている場合や、苦情対応など精神的負担の大きい電話が頻繁にかかってくるような場合には、単純に電話対応時間が短いというだけでは、労働密度が低いとは評価できません。また、電話対応の合間に来客対応、書類整理、データ入力などを行っている場合には、電話が鳴っていない時間も別の業務に従事しているので、この場合は、電話対応自体は断続的であっても、従業員の仕事全体としては継続的な労働と評価されます。
仮に、断続的労働に該当しそうな場合であったとしても、会社が独断で労働時間規制の適用を除外することはできません。労働基準法41条3号の適用を受けるためには、所轄労働基準監督署長の許可が必要になります。許可を受けていない段階では、たとえ実作業時間が極めて短かったとしても、原則として通常の労働時間規制が適用されることになります。仮に、断続的労働従事者として許可を受けることができた場合には、労働基準法上の1日8時間、週40時間という規制や、休憩、法定休日に関する規制が適用されなくなり、その結果、法定労働時間を超えたことを理由とする時間外割増賃金や、法定休日労働に対する割増賃金の支払義務も生じなくなります。ただし、深夜労働に関する割増賃金や年次有給休暇の規定は適用されます。
労働時間規制が適用除外となったとしても、賃金を自由に減額できる訳ではなく、労働契約で定められた賃金の支払義務は残りますし、最低賃金法の適用も受けます。最低賃金の減額特例を利用したい場合には、これも別途許可が必要となります。企業側からすれば、電話対応だけを担当する従業員について断続的労働の許可を取得できれば、電話対応が必要な時間帯に合わせて勤務を組みやすくなり、時間外割増賃金の負担を抑えられる可能性もありますが、許可を取得するためには、実際の業務内容や手待ち時間の状況を明らかにする必要があり、電話対応の頻度や所要時間、電話がない時間の業務内容などを記録化しておく必要があります。また、許可取得後に電話の本数が増えたり、別の事務作業を担当させたりすれば、許可の前提となった勤務実態が変わることになるので、許可を取得したからといって、その後どのような業務を担当させても労働時間規制が適用されないわけではありません。
電話対応の業務量が少なく、今後も大きく変化する見込みがないのであれば、断続的労働従事者としての許可を検討する価値はあるかもしれませんが、実際のところ、たまにしか掛かってこない電話の対応だけに従事させる職員を雇うくらいなら、電話対応以外の仕事も担当させて、通常の労働時間管理を続けた方がよほど効率的かと思います。暇な仕事だから、監視又は断続的労働に当たるとして労働時間規制を逃れられないか、場合によっては、軽易な業務に従事する者として最低賃金の減額の特例を受けられないかなど、人材不足の昨今、そんなケチ臭いことを考えているような事業所で働こうという奇特な人はおそらく現れないように思います。個人的には、そちらの心配をしてしまいます。
令和8年11月6日
弁護士 石上秀樹