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労災というと、仕事中の事故というイメージが強いかもしれませんが、労働者災害補償保険法は通勤途中の事故についても一定の場合に補償対象としています。いわゆる「通勤災害」と呼ばれるものです。同法7条2項は、「通勤」を「労働者が、就業に関し、次に掲げる移動(住居と就業の場所との間の往復等)を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」と定義しています。つまり、単に家から会社へ向かっていたというだけではなく、就業との関連性があり、かつ合理的なルート・方法による移動であることが必要です。ここで問題になるのは、通勤途中に私的行為が入った場合です。
同法7条3項によると「労働者が通勤の途中で経路を逸脱し、又は通勤を中断した場合には、その逸脱又は中断の間及びその後の移動は通勤としないと規定しています。ここでいう「逸脱」とは、通勤経路から外れることをいい、「中断」とは、通勤行為を一時停止して私的行為を行うことを意味します。典型例としては、通勤途中に居酒屋へ立ち寄って飲酒したり、遊技場へ行ったりするケースです。このような場合、その間はもはや就業との関連を有する移動とはいえないため、労災保険の対象から外れることになります。
では、通勤途中にコンビニへ立ち寄った場合は、この場合の逸脱・中断にあたるのでしょうか。日常生活では、出勤途中にコンビニで飲み物や昼食を買うことは珍しくなく、通勤の途中なのだから通勤災害になると考える方も多いかもしれません。近時、この問題について判断した裁判例として注目されたのが、国・王子労基署長事件(東京地裁令和6年6月27日判決)です。この事件では、労働者は出勤途中にコンビニへ立ち寄り、店内で転倒して負傷しました。原告側は、通勤経路上のコンビニであり、短時間の利用であったことなどから、なお通勤災害に当たると主張しましたが、東京地裁は、この主張を認めませんでした。裁判所は、コンビニ店内で商品を選択・購入する行為は、通勤のための移動行為そのものではなく、私的行為であるとし、そのうえで、店内滞在中は通勤経路の逸脱又は中断に当たると判断し、原告の請求を棄却しています。
今の社会において、通勤途中にコンビニへ立ち寄るというのは極めて日常的なことで、飲み物を買う、朝食を購入する、ATMを利用する、トイレを借りるなど、生活上必要な行為として広く行われています。そのため、コンビニに入った瞬間に当然に通勤が終了すると考えるのは、実態にそぐわないと考える方もおられるのではないでしょうか。
この点、労働者災害補償保険法は一定の配慮をしていて、同法7条3項ただし書によると、「日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるもの」を行った場合には、その後合理的経路に復帰すれば、再び通勤として扱う旨を定めています。この「日常生活上必要な行為」には、日用品の購入その他これに準ずる行為が含まれるとされているので、コンビニ利用後に再び通勤経路へ戻った後であれば、通勤性が回復する可能性があるということです。つまり、コンビニ利用後に通勤経路に戻った後に転倒して骨折したという場合であれば、合理的経路への復帰後の事故として、通勤災害と認められる余地があるということになります。
もちろん、事故発生場所や行動態様によっては、通勤経路の逸脱・中断に当たらないと評価されることも全くないわけではありません。 経路近くの公衆トイレの利用、経路上での喫煙、新聞紙の購入の場合などです。ただ、少なくとも現在の実務では、通勤途中に立ち寄った店内での事故についてはかなり慎重に判断される傾向にあるといえます。通勤災害は、日常生活と就業行為の境界に位置する制度であり、個別事情によって結論が大きく左右されるので判断が非常に難しいところがあります。自身の事故が通勤災害にあたるのかあたらないのか迷われたら、いつでも弊所の相談をご利用くださいね。
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹