起訴休職とは、労働者が刑事事件で起訴された場合に、刑事裁判の確定まで一時的に労働者を休職させる制度のことをいいます。捕された場合ではなく、起訴された場合であることに注意が必要です。一般的に、重大な犯罪の場合、在宅で起訴されることはあまりなく、証拠隠滅、逃亡を防ぐために逮捕・勾留されることが多いのが現状です。従業員が逮捕に引き続き勾留されると、労務提供は不能になり、通常は欠勤扱いとなります。
従業員が逮捕や起訴をされると、当該従業員の担当職務の性質、公訴事実の内容によっては、起訴された従業員が引き続き就労することにより、会社の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあります。
そのような事態を避けるために、就業規則に「刑事事件で起訴された者は、その事件が裁判所に係属する間は休職処分とする」といった起訴休職の規定が設けられていることがあります。目的からすると、従業員のための制度ではなく、どちらかというと、会社のための制度であると考えられます。
起訴後も身柄拘束が続いている場合、会社から休業(自宅待機)を命じなくても、拘束されている従業員は出社することはできないので、この制度は、従業員が身柄拘束されることなく在宅で刑事裁判を受けている場合に適用される制度とも言えます(異なる見解もあります)。
なお、就業規則にこの起訴休職の定めがある場合であっても、裁判実務では、従業員が刑事事件で起訴されたことのみをもっては起訴休職処分に付しえないとされています。刑事事件といってもその内容は様々ですし、有罪判決が確定するまでは被疑者・被告人には「無罪の推定」が働きますので、起訴休職が有効となるためには、起訴されたという事実のほか、以下の2つの要件のいずれかを満たすことが必要であるとされているケースが多いです。
① 職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無など諸般の事情に照らし、起訴された従業員が引き続き就労することにより、会社の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあること
② 当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがあること
個人的には、これらの要件を満たすためのハードルは結構高いと感じます。
一般的に、起訴後は、捜査のために呼び出されることはありませんし(追起訴が予定されている場合は除く)、公判期日も前もって分かっているので、事前に会社に欠勤する旨の連絡も可能であること、裁判員裁判でない限り、公判の時間もそれほど長くないこと、報道等がされていない限り、起訴後に出社することで会社の社会的信用が失墜するという事態はあまり考えられないこと、同じ職場の従業員が一緒に働くことに抵抗を感じるとしても、無罪推定の原則がある以上、休業を命じる必要性はかなりシビアに判断されることからです。
仮に、これらの要件を満たした起訴休職命令だとしても、かかる命令は、基本的には、会社の職場秩序の維持のためという会社都合での休職とみなされる可能性も高いため、労働基準法26条に基づく平均賃金の60%以上の休業手当を支払い義務が生じうるということには注意が必要です。