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2026/07/20
退職・解雇

試用期間満了後に正式採用することはないと言われたのですが、従う義務はあるのでしょうか。




 入社後の試用期間が終わるころ、会社から突然、本採用はしません、試用期間満了で退職してくださいなどと告げられることがあります。そのように告げられた労働者としては、試用期間なのだから仕方がない、会社の判断に従うしかないと思うかもしれません。試用期間とは、採用した労働者について、能力や適性、勤務態度などを実際の業務を通じて確認するための期間です。労働基準法や労働契約法に試用期間そのものを定めた規定はありませんが、多くの企業では就業規則や雇用契約書において3か月から6か月程度の試用期間を設けています。




 試用期間中であっても労働契約は既に成立していて、最高裁判所も、試用期間付きの労働契約は、解約権留保付労働契約であると判断しています。これは、会社が採用後の勤務状況を確認し、一定の場合には本採用を見送ることができるという考え方をベースにはしていますが、試用期間中は会社は自由に解雇できるというような効果まで認めたものではありません。試用期間は、採用時には分からなかった能力や適性を確認するための制度であって、本採用するか否かの判断時には、通常の解雇よりは広い事情を考慮できるとしても、その判断は決して無制限ではありません。本採用を拒否できるのは、試用期間中に判明した事情に照らして、引き続き雇用を継続することが適当でないと客観的に判断できる場合に限られます。





 労働契約法16条は、解雇について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利濫用として無効になると定めていますが、この解雇権濫用法理は、試用期間中の本採用拒否にも及びます。ですので、企業に通常解雇より広い判断の余地があるとしても、上司と相性が合わない、期待外れだった、社風に合わないといった抽象的な理由だけでは不十分です。試用期間中のどのような事実から、将来にわたって従業員として勤務させることが適当でないと判断したのかを、企業が具体的に説明できることが重要です。本採用拒否が認められやすい事情としては、採用後に重大な経歴詐称が判明した場合、正当な理由なく遅刻や無断欠勤を繰り返した場合、業務上必要な指示に従わない場合、勤務態度に重大な問題があり、注意後も改善しない場合などが考えられます。また、採用時に予定されていた業務を遂行する能力が著しく不足し、一定の指導や教育をしても改善が見込めない場合にも、本採用拒否が有効となる可能性はあります。






 一方で、仕事上の軽微なミスが数回あっただけの場合や、十分な教育を行わないまま能力不足と判断した場合などでは、本採用拒否の合理性が否定されることがあります。採用されたばかりの労働者は、業務の進め方や社内ルールに不慣れであることが通常ですので、企業には、一定の指導や改善の機会を与えたうえで適性を判断することが求められます。また、採用時に通常の調査をしていれば容易に把握できた事情について、後から問題視して本採用を拒否することも権利濫用と評価されるリスクが高いでしょう。採用活動における確認不足を、本採用を拒否することで、労働者へ責任転嫁することは認められないからです。




 本採用拒否を考える企業側にとっては、評価、指導、改善の過程を記録しておくことが重要です。本採用を拒否する際に、単に、能力が不足している、勤務態度が悪いと説明するだけでは、客観的な合理性を立証することは困難なので、いつ、どのような問題が発生したのか、その問題について上司がどのような指導をしたのか、本人はどのように回答したのか、その後改善が見られたのかを、面談記録や評価表、電子メールなどの形で残しておいた方がよいでしょう。評価基準についても、担当者の主観だけに頼らず、職務内容に即した具体的な基準を設けることが望ましいです。また、本作用を拒否するにしても、企業が試用期間の最終日まで問題を伝えず、突然本採用拒否を告げることも問題です。企業が考える従業員の問題点をできるだけ早く伝え、改善のための期間を設け、それでも改善しなかったという経過があれば、本採用拒否の合理性を説明しやすいですが、それまで問題なく勤務していると扱っておきながら、最終日に抽象的な理由で突然本採用拒否を伝えることは、解雇権の濫用と判断される可能性が高いでしょう。




 手続面では、労働基準法20条が、使用者が労働者を解雇する場合、原則として少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払わなければならないと定めています。同法21条4号は、試用期間中の者について解雇予告制度の例外を設けていますが、その者が14日を超えて引き続き使用された場合にはこの例外が適用されないことに注意が必要です。もちろん、解雇予告手当を支払ったからといって、本採用拒否そのものが有効になるわけではありません。解雇予告は手続の問題であり、解雇理由の合理性とは別の問題です。30日分の賃金を支払っても、解雇に客観的かつ合理的な理由がなければ、労働契約法16条により解雇が無効となる可能性は残ります。




 勤務する会社から本採用拒否を告げられた側の労働者としては、まず雇用契約書、労働条件通知書、就業規則を確認し、自分の契約が期間の定めのない労働契約なのか、有期労働契約なのかを確かめましょう。有期労働契約の場合には、労働契約法17条や19条に基づく雇止めの効力の問題となり、本採用拒否とは法的な根拠が異なる可能性があるからです。あと、会社に対して本採用拒否の具体的な理由を書面で示すよう求めることも大事です。労働基準法22条2項は、解雇を予告された労働者が解雇理由について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付しなければならないと定めています。会社から退職届の提出を求められた場合などは、安易に応じるべきではありません。退職届を提出すると、会社による解雇ではなく、労働者自身の意思による退職と扱われる可能性があるので、本採用拒否に納得しておらず、引き続き勤務する意思があるのであれば、退職届を提出せず、自分は退職に同意していないことを明確に伝えておきましょう。




  試用期間中の解雇と本採用拒否の区別についても、労使とも理解しておく必要があります。本採用拒否は、会社が試用期間全体を通じて労働者を評価した結果として、本採用を見送るかどうかを判断するものです。一方、試用期間の途中で解雇する場合には、本来予定されていた評価期間を最後まで待たずに契約を終了させることになるので、企業としては、試用期間満了まで勤務させることが困難であると判断できるだけの事情が必要になる場面が多く、より慎重な判断が求められます。例えば、採用後に重大な経歴詐称が判明した場合、正当な理由なく無断欠勤を繰り返した場合、重大な服務規律違反があった場合などは、試用期間中であっても解雇が認められる可能性がありますが、仕事に慣れていないためにミスが多い、期待したほど仕事ができない、指導すれば改善が期待できる段階であるといった事情だけでは、途中解雇が認められる可能性は低いです。試用期間は、会社が労働者を評価する期間であると同時に、必要な教育や指導を行う期間でもあるからです。



 試用期間は、企業が採用の適否を見極めるための制度ですが、それは会社に無制限の解雇権を与える制度ではありません。通常の解雇よりも広い範囲で判断できるとはいえ、その判断には客観的な理由と社会的な相当性が求められます。企業は評価や指導の過程を丁寧に積み重ねることが重要であり、労働者も試用期間だから仕方がないと諦めるのではなく、自らの権利を正しく理解した上で冷静に対応することが大切です。



令和8年7月20日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

 

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