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2026/07/30
退職・解雇

解雇を避けるため自然退職が適用されるケースを増やしたいのですが、どこまで認められるのでしょう




 解雇はなかなか言いずらいし、あとで揉めても面倒なのでとりあえず自然退職扱いにしておけば問題ないじゃないか、人事を担当されている方であれば、そのように考えたことは一度くらいはあるのではないでしょうか。確かに、就業規則には「一定期間無断欠勤した場合は自然退職とする」、「休職期間が満了しても復職できない場合は自然退職とする」といった規定が置かれていることが珍しくありません。そのため、就業規則に書いておけば、そのとおり退職扱いにできるのではないかと考えてしまっても決しておかしなことではありません。






 極端な話、「2カ月連続ノルマを達成できなかった場合は自然退職とする」、「3カ月の間に遅刻を2回以上した場合は自然退職とする」、「職場の風紀を少しでも乱した社員は自然退職とする」、「上司の命令に一度でも逆らった場合は自然退職とする」等々・・、会社の立場から従業員を自然退職にさせたくなる事由はいろいろ考えられなくはありませんが、仮にこのような規定が就業規則に書いてあった場合に、そのとおり効果が果たして認められるのでしょうか。普通に考えて、この解雇規制の厳しい日本でこのような退職が認められるはずはありません。もちろん、従業員の側が、「就業規則に書いてあるから仕方がない、遅刻を2回してしまった俺が悪いんだ・・」と心の底から納得して辞めるのであればしばらくは問題にならない可能性もないわけではありませんが、そんな寛大な従業員ばかりであるはずもなく、そのうちこんな就業規則おかしいだろう、無効だ、ブラックにもほどがあると問題にされることになるのは火を見るより明らかです。



 

 言うまでもないかもしれませんが、就業規則に自然退職と書いてあるだけで、会社が自由に従業員を辞めさせられるわけではありません。裁判所は自然退職という名称ではなくその実態を見て判断しますので、実質的に会社が一方的に労働契約を終了させたのであれば、それは解雇と評価され、労働契約法16条の厳しい解雇規制を受けることになります。そもそも、自然退職とは法律上の制度ではなく、労働基準法や労働契約法にも自然退職という言葉は登場しません。自然退職とは、就業規則などで定められた一定の事由が発生したことにより、会社の意思表示を待つことなく労働契約が終了するという実務上の概念に過ぎません。代表的な例としては、従業員の死亡、定年到達、契約期間満了などがありますが、これらは会社の恣意が介入する余地のない客観的な事実の発生によって労働契約が終了する(解雇とは関係がない)ため、自然退職として理解されることに違和感はありません。




 問題となるのはそれ以外のケースで、本来であれば解雇で対応すべきところ、就業規則に自然退職規定を置くことで、解雇権濫用法理の適用を免れる結果になりえる場合です。例えば、無断欠勤や私傷病休職が代表的な例といえるでしょう。無断で欠勤する場合や、病気の影響で仕事ができないという事情は、本来であれば解雇理由になりえます。解雇の対象となりえる従業員をあえて自然退職という形で退職させるとなると、ん?っとなにか引っ掛かりませんでしょうか?解雇に関しては厳しいルールがあるのに、あえて自然退職にすることでそれを避ける結果になっていないかという疑惑が生じるのは自然な反応だと思います。自然退職というか、実質解雇じゃねえの?という疑問から、これらの自然退職の有効性については、実質的に解雇権の濫用にあたらないかという点から厳しく評価される傾向にあります。



 

 就業規則は万能ではありません。労働契約法は、就業規則が合理的なものであることを労働契約の内容となる条件としていますし、労働者に不利益な変更について厳格な合理性を求めています。仮に、「3日無断欠勤したら自然退職」、「会社が退職と判断した場合は自然退職」などといった規定を設けたとしても、そのような内容が合理的だとは到底いえません。自然退職規定を設けること自体は、人事管理上必要な場面があり、特に、長期間所在不明となった従業員への対応や、休職制度との関係では重要な役割を果たします。そのような規定を設ける理由は、あくまでも客観的な退職事由が発生した場合の取扱いを明確にし、会社と従業員双方の法的安定性を確保することにあります。自然退職は、解雇の代用品ではありません。安易な自然退職処理をすると、実質は違法な解雇で退職処理は無効だったと後で判断されるリスクになり得ることを、人事担当者は認識しておく必要があります。


令和8年7月30日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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