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人事や採用に関する書籍や資料を読んでいると、職務、職種、職位という言葉がよく出てきます。どれも仕事に関係する言葉なので、何となく同じような意味で使っている人も少なくありませんが、人事制度や労働契約を考えるうえでは、それぞれの意味や違いを正確に理解しておく必要があります。簡単に整理すると、職務はその人が具体的に何をするのか、職種はどのような種類の仕事に属するのか、職位は組織の中でどのような位置にいるのかを表す言葉です。この三つについて、労働基準法などが統一的な定義を置いているわけではないので、企業によって使い方が異なることもありますが、大きな仕事のカテゴリーが職種で、その中で実際に担当する仕事が職務と考えると分かりやすいかもしれません。
分かりやすい例で、医師の場合で考えてみましょう。
ある病院に、循環器内科で勤務し、外来患者や入院患者を診察しながら心臓カテーテル検査なども担当している医長がいるとします。この人についていえば、まず医師が職種に当たります。循環器内科医、心臓外科医、美容皮膚科医などと、さらに細かく職種を分類することもできますが、いずれにしても、職種はどのような種類の仕事をする人なのかを示すものになります。
これに対し、患者の診察、治療、検査、診療録の作成、当直、若手医師への指導など、その医師が実際に担当している仕事が職務です。同じ医師という職種でも、救急医療を中心に担当する人と、外来診療を中心に担当する人では職務が違います。同じ職種だからといって、必ずしも同じ職務を担っているわけではありません。
あと、職位とは、その人が組織の中でどのような地位や責任を与えられているかを示すものなので、医長、診療科長、部長などのことをいいます。
一般の勤務医から医長や診療科長という別の職位に変わったからといって、医師という職種が別の職種に変わるわけではありませんが、職位が変われば職務が変化することはあります。勤務医のときには患者の診療が仕事の中心だった人が、診療科長になれば、診療科全体の運営や勤務体制の調整、若手医師の指導、医療安全への対応などについても責任を負うこともあるでしょう。大学病院などでは、教授、准教授、講師といった大学教員としての職位と、診療科長など病院組織上の役割を兼ねている場合もあるので、例えば、ある人が職種としては医師であり、大学では教授という職位にあり、病院では診療科長を務め、診療、研究、教育、組織運営という複数の職務を担当することもあります。
これらの区別は単なる言葉だけの問題ではなく、労働契約にも影響してきます。労働基準法15条は、使用者に労働条件の明示を義務付けていて、労働基準法施行規則5条1項は、就業の場所及び従事すべき業務なども明示すべき事項としています。2024年4月からは、就業場所と従事すべき業務について、変更の範囲も明示することになっています。例えば、営業職を募集するというだけでは職種しか分からないため、具体的に、法人向けの新規開拓を担当するのか、既存顧客を担当するのか、営業戦略の立案まで任せるのかという職務を明確にしなければ、会社と応募者の認識がずれる可能性があります。どこまで業務を変更できるのかという問題にも関わるため、採用時には職種だけではなく、具体的な職務をどこまで限定する契約なのかを確認しておくことは大切です。
この職種、職務、職位を区別することは、会社が、採用時にどのような人材を求めるのか、入社後にどの仕事を任せるのか、どのような責任を負わせるのか、何を基準に評価して処遇するのかを明確にするための土台になります。とりわけ職務内容を限定して採用する場合には、労働契約上どこまで仕事の変更が可能なのかを意識しておく必要があります。そのため、求人票、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則などの記載が相互に矛盾していないかを確認しておくことも重要です。
令和8年9月1日
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹