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営業職や保守点検業務、訪問介護、建設現場への移動を伴う仕事などでは、「会社に出社せずにそのまま取引先へ向かう」「仕事が終わったら会社に戻らず直接帰宅する」という、いわゆる「直行直帰」の働き方が広く定着しています。テレワークの普及やモバイル端末の発達によって、近年はさらに広がっていると思います。このような働き方をしている場合、自宅を出た時点から労働時間になるのか、移動時間はどこまでが労働時間に含まれるのかといった点に疑問が生じやすく、労使間でトラブルになる事例も発生しています。
この点、労働基準法には、労働時間についての明確な定義は書かれていませんが、裁判や実務においては、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」が労働時間であると考えられています。この定義からすると、直行直帰における移動時間が一律に労働時間になるわけではなく、個別の事情によって結論は変わりうるということになりそうです。一般的には、自宅から最初の訪問先へ向かう時間、あるいは最後の訪問先から自宅へ帰る時間については、通常の通勤時間に近いものとして扱われることが多く、原則として労働時間には含まれないと考えられます。たとえば、営業担当者が朝、自宅から直接取引先へ向かい、商談終了後にそのまま帰宅するケースでは、自宅から最初の訪問先までの移動や、最後の訪問先からの帰宅は、会社への通常の通勤と性質が大きく変わらないため、通常は労働時間として扱われません。この場合の移動時間については、通常の通勤時間同様、会社の具体的指揮命令下にあるとはいえないからです。
近年は、スマートフォンやチャットツールの普及により動中であっても常時会社と接続された状態で働くケースが増えていて、そのため、移動時間中の実態によっては、労働時間と評価される可能性が高まっています。例えば、移動中に顧客対応の電話を常時受ける義務がある場合、会社からリアルタイムで指示を受け続けている場合、あるいはノートパソコンで報告書作成を行うことが求められている場合などでは、単なる通勤時間とは評価しにくくなるでしょう。また、工具や重量物の運搬が義務づけられているケースや、社有車の運転そのものが業務として位置づけられているケースでも、労働時間と認められる可能性が高いです。警備員や運送業務などでは、移動それ自体が業務の一部であるとして、労働時間に該当すると判断されることが多いです。
一方で、顧客先から顧客先への移動、つまり訪問先間移動については、通常、労働時間に該当すると考えられています。これは、業務を遂行するために不可欠な移動であり、会社の指示によって行われるものだからです。例えば、午前中にA社を訪問し、その後B社へ移動して午後から商談を行う場合、A社からB社への移動時間は、業務の一環として当然に労働時間へ算入されます。なお、営業職等では、外回りだから労働時間の管理ができないという理由で、固定残業代制度や事業場外みなし労働時間制が導入されていることがあります。事業場外みなし労働時間制とは、会社の外で働き、労働時間の算定が困難な場合に、所定労働時間または一定時間労働したものとみなす制度で、この制度の適用を受けるためには、労働時間の算定が困難であることが必要とされています。しかし、昨今、スマートフォンのGPS、業務チャット、クラウド日報、メール履歴などによって、外勤者の行動把握が容易になっているため、単純に外勤だから労働時間の算定が困難とはならず、要件を満たすか否かの判断が非常に難しくなっているのが実情です。一方で、会社には、労働安全衛生法66条の8の3に基づき、労働時間を適切に把握する義務が課されていて、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」でも、自己申告任せではなく、客観的記録を用いた管理が求められています。そのため、直行直帰だから、外勤だから時間管理できないという説明は、現在では通用しにくくなっています。
実際のところ、従業員側が、移動中も仕事の電話をしていた、会社から常に指示が来ていた、だから労働時間に含まれる(給料が発生する)という感覚を持っていても、会社側は単なる移動時間だから労働時間ではないと認識していることがよくあります。このズレを防ぐためには、企業側が、どの時間を労働時間として扱うのかを就業規則や運用ルールで明確化することが必要となります。単なる移動であれば通勤時間ですが、実質的に業務遂行を義務づけられているのであれば、それは労働時間になり得ます。直行直帰、外勤が頻繁に発生するような事業所においては、労使ともにこの基本原則を正しく理解することが重要です。
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹