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産業保健師とは、企業で働く人々の健康を守り、心身ともに安全に働ける環境づくりを支援する専門職です。他の保健師同様、看護師資格を基礎として、さらに保健師国家資格を取得した専門職で、病気の治療ではなく「予防」や「健康維持」に重点を置いて活動します。保健師の中でも産業保健師というのは、活動の場が自治体や病院ではなく企業である点が特徴的です。近年は、メンタルヘルス不調者の増加や長時間労働対策、健康経営への関心の高まりを背景に、その役割がますます重要になっています。
産業保健師の業務は非常に幅広く、健康診断後のフォロー、メンタルヘルス相談、休職者の復職支援、ストレスチェックの実施支援、生活習慣病予防指導などが中心となります。例えば健康診断で高血圧や糖尿病のリスクが見つかった従業員がいた場合、産業保健師は本人と面談し、食生活や運動習慣の改善についてアドバイスを行います。また、最近では睡眠不足や過重労働による健康障害が社会問題となっているため、長時間労働者への面談や健康相談も重要な業務です。さらに、職場の人間関係や業務負荷によるストレスを抱える従業員から相談を受けることも少なくありません。産業保健師は本人の話を丁寧に聞きながら、必要に応じて産業医や人事部門、外部医療機関との橋渡し役を担います。つまり産業保健師は、企業の中で最も従業員に近い立場にいる健康専門職だといえます。
産業保健師については、労働安全衛生法に直接的な配置義務が定められているわけではありません。一方、産業医については労働安全衛生法第13条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では選任義務があります。そのため、多くの企業ではまず産業医を選任し、その活動を補佐する形で産業保健師を配置しています。個人的には、まず産業保健師を選任し、その活動を補佐する形で(必要に応じて)、産業医を配置する方が現場の実態には即しているのかなとは考えていますが、現行法上はそうなっていません。
産業医と産業保健師はどちらも職場の健康管理を担いますが、その役割には明確な違いがあります。産業医は医師免許を有し、さらに労働衛生に関する所定の要件を満たした医師です。現行法上は、医学的な判断や就業上の意見を述べる権限を持っています。例えば、うつ病で休職した従業員が復職を希望した場合、最終的に「通常勤務が可能か」「残業を制限すべきか」といった医学的判断を行うのは産業医です。一方、産業保健師は、日常的に従業員と接しながら健康状態を把握し、必要に応じて産業医につなぐ役割を担います。役割でいうと、産業医が判断を行う専門家であるのに対し、産業保健師は継続的に支援してくれる身近な専門家ということになります。学校保健師(学校の保健室にいる先生)と学校医との関係を思い浮かべてもらえると分かりやすいかもしれません。
実際の現場では、産業医と産業保健師は密接に連携していて(連携できていないこともあります)、例えば、ストレスチェックで高ストレス者と判定された従業員がいた場合、まず産業保健師が本人へ連絡し、現在の体調や業務状況をヒアリングします。その結果、メンタルヘルス不調の疑いが強い場合には産業医面談が実施され、産業医は面談を通じて就業継続の可否や勤務制限の必要性を判断します。その後、産業保健師が継続的なフォローを行い、状態の変化を確認しながら人事部門とも連携します。また、休職者の復職支援においても同様で、産業医が医学的な復職判定を行い、産業保健師が復職後の体調確認や定着支援を担当するケースが一般的でしょう。
産業保健師を配置することは、従業員だけでなく企業にも大きなメリットがあり、健康問題を早期に発見できれば、休職や退職を防ぎやすくなります。また、メンタルヘルス不調の重症化を防ぐことで、職場全体の生産性向上にもつながります。産業保健師は、企業で働く人々の健康を支えるという重要な役割を担う貴重な専門職であり、健康診断後のフォロー、メンタルヘルス相談、休職者の復職支援、生活習慣改善指導など、その活動領域は非常に幅広く、近年では健康経営等の観点からも欠かせない存在となっています。企業の健康管理体制は、産業医だけで成立するものではありません(生徒の健康管理が学校医だけで成立しないのと同様)。産業保健師が従業員の日常に寄り添い、産業医や人事部門と連携することで、はじめて実効性のある産業保健活動が実現します。今後、働き方の多様化が進む中で、産業保健師の重要性はさらに高まっていくと考えています。将来的には、産業保健師資格取得の要件を高度化し、産業医の役割についても産業保健師が担えるようになればよいなと個人的には考えています。
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹