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2026/09/27
退職・解雇

産後2ヵ月で職場に復帰し働いてもらっている従業員がいるのですが、明らかに以前より仕事の効率が落ち、他の従業員と比較してもミスが多い状態が続いています。他の従業員の手前もあり辞めてもらいたいので、退職勧奨しても問題ないでしょうか




 労働基準法は、産後8週間を経過しない女性を原則として就業させてはならないと定めているので、産後8週間を経過してから復職しているという前提であれば、本人を働かせること自体が法律に違反するわけではありません。問題は、その後の勤務成績を理由として退職を求めることができるのかという点です。退職勧奨とは、会社が従業員に退職を勧め、本人の同意によって労働契約を終了させようとするものです。会社から一方的に契約を終了させる解雇とは異なりますから、会社が従業員に退職を打診すること自体が直ちに違法になるわけではありません。




 産後の従業員についても退職勧奨をすること自体が禁止されているわけではないので、実際に業務遂行能力が低下し、今もその状態が続いているのであれば、それを人事評価の対象とすることは可能です。ただし、出産直後という時期に退職を求める以上、男女雇用機会均等法が禁止する出産を理由とする不利益取扱いと評価されないよう、通常の能力不足のケース以上に慎重な対応が必要となります。




 男女雇用機会均等法9条3項は、女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前産後休業を取得したこと、その他妊娠・出産に関する一定の事由を理由として、解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。単に、子育て中であるという事情そのものは、同項の禁止事由ではありませんが、育児休業、子の看護等休暇、短時間勤務、残業免除などの制度を利用したことを理由とする不利益取扱いについては、育児・介護休業法違反の問題にはなります。ややこしいですが、妊娠・出産に関する均等法上の保護と、育児のための制度利用に関する育児・介護休業法上の保護とは、区別して考える必要があります。




 ちなみに、男女雇用機会均等法は、出産した女性について、実際に仕事の能率が落ちても、それを評価してはならないとは規定していません。厚生労働省の指針も、賞与や人事考課について、妊娠・出産等によって現実に労働能率が低下した場合、その実際の低下を一定の範囲で考慮すること自体は否定していません。問題となるのは、実際の能率低下を超えて不利益に扱ったり、同程度に能率が低下した私傷病等の従業員より不利に扱ったりする場合です。例えば、産後2か月で復帰した従業員について、会社が、出産したばかりだから、以前のようには働けないだろうと推測して退職を求めるのであれば、出産そのものを理由とした不利益取扱いとして問題になりますが、復職後の仕事を実際に確認したところ、処理件数が他の同種業務担当者より著しく少ない、入力ミスが繰り返される、取引先への誤連絡が続いているといった客観的な問題が現実に発生しているのであれば、それを会社が能力・勤務成績の問題として取り上げることまで禁止されているわけではありません。





 今回の問題の難しさは、出産からわずか2か月という時間的な近さにあります。厚労省は、妊娠・出産等を契機として不利益取扱いが行われた場合には、原則として妊娠・出産等を理由として行われたものと解し、原則として妊娠・出産等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いが行われた場合には、契機としているかが問題になるとの考え方を示しています。ですので、産後2か月の社員に退職を求めれば、会社が能力不足が理由ですと説明するだけで問題が解決するわけではなく、本当に出産とは別の理由による退職勧奨なのか、その説明を客観的事実によって裏付けられるかが重要になります。どの業務について処理速度がどの程度落ちているのか、どのようなミスが何回発生したのか、同じ仕事を担当する他の従業員と比較してどの程度の差があるのかを確認しておく必要があります。産後間もない時期でもあるので、健康上の問題や医師からの指導の有無などを確認した上で、本人に具体的な問題点を伝え、改善のための指導を行い、一定期間その推移を見ることも必要でしょう。




 会社が必要な配慮をした後も、通常求められる業務水準に達しない状態が続くのであれば、出産した従業員にも、合理的に設定された職務上の水準を求めることはできます。むしろ他の従業員との公平を考えるのであれば、同じ程度の能力低下が生じた社員について、出産の有無にかかわらず基本的に同じ評価基準を用いることが重要です。その意味では、他の従業員の手前という会社の問題意識も、全く意味がない訳ではなく、業務分担や職場運営上の問題として考えるのであれば問題はありません。




 今回のケースであれば、現時点ですぐに退職勧奨を行うよりも、まず本人と面談し、仕事の効率低下やミスの原因を確認したうえで、必要な配慮と業務上の指導を行い、その後の改善状況を一定期間観察する方が安全です。それでもなお、他の従業員と同じ合理的な評価基準に照らして明らかな能力不足が継続し、必要な指導によっても改善がみられないのであれば、その段階では能力不足を理由とする退職勧奨を検討する余地はあります。産後の社員だから退職勧奨が一切できないわけではありませんが、出産と時間的に近接した能力低下を理由として退職を求める以上、会社には、出産ではなく、客観的な勤務上の問題を理由としていると説明できるだけの事実と手続が必要です。復職後の状況を丁寧に把握し、必要な配慮、具体的な指導、客観的な記録という対応を慎重に講じていくことが、紛争の要望という観点からは重要となります。


令和8年9月27日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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