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2026/04/17
各種保険

日常的にチェーンソーを使う仕事をしているのですが、最近、手指がしびれたり、手に力が入らないことが多くなってきました。これって、会社に相談したほうがいいのでしょうか。





チェーンソーを用いた業務に従事されている方から、手指のしびれや握力低下といった症状について相談を受けることがあります。この種の問題は、単なる体調不良として軽視されがちですが、実務的には「振動障害」という職業病の典型例として理解すべきものです。そして、この段階で会社に相談するか否かは、その後の健康状態のみならず、法的評価にも影響を及ぼす重要な分岐点となります。


振動障害とは、チェーンソー等の振動工具を長期間使用することにより、手腕に慢性的な振動が加わり、血管や神経に障害が生じる状態を指します。典型的には、寒冷時に指が白くなるレイノー現象、手指のしびれ、感覚の鈍麻、さらには握力の低下などが現れます。これらは進行性であり、初期段階での対応を誤ると、不可逆的な障害に至るおそれがあります。



労働契約法第5条は、使用者に対して「労働者の生命及び身体等の安全を確保するよう配慮する義務」、いわゆる安全配慮義務を明確に規定しています。また、労働安全衛生法第66条は健康診断の実施を義務付けており、振動工具を扱う業務については特殊健康診断の対象となります。さらに、厚生労働省の「振動障害予防対策要綱」は、作業時間の制限や防振措置の実施など、より具体的な管理基準を示しています。





実務上重要なのは、振動障害の労災認定基準を示した振動障害の認定基準について(◆昭和52年05月28日基発第307号)です。この基準は、単に症状の有無を問うものではなく、①振動工具の使用歴、②作業内容および作業期間、③症状の内容と程度、④医学的検査結果といった複数の要素を総合考慮し、「業務との相当因果関係」が認められるかどうかを判断するものです。振動障害の労災認定については、「その仕事をしていたから発症したといえるか」がポイントとなります。長期間にわたりチェーンソーを使用していた事実に加え、レイノー現象や神経障害といった典型的症状が医学的に裏付けられることが、認定の重要な要素となります。



強調しておきたいのは、「初動の遅れ」がもたらす不利益です。症状があるにもかかわらず会社に申告せず作業を継続した場合、健康被害が進行するリスクが高まります。また、後に労災申請を行う際、「いつからどのような症状があったのか」「業務との関連性はどうか」といった点について客観的資料が乏しくなり、立証上不利に働くこともあります。 他方で、早期に会社へ相談した場合には、法令に基づく適切な対応が講じられる可能性が高まります。具体的には、作業時間の見直し、配置転換、防振手袋等の支給、さらには医師による精密検査の実施などが考えられます。これらは本来、企業が主体的に行うべき安全配慮措置であり、労働者側からの申告はその契機となるものです。仮に企業がこれらの措置を怠った場合には、安全配慮義務違反として損害賠償責任が問われる可能性も否定できません。





ご質問にあるように手指のしびれや握力低下といった症状がある場合、単なる体調問題としてやりすごすのではなく、従事している作業が原因で発生した振動障害ではないか、場合によっては、労災に該当する可能性があるのではないかと考えることが重要です。早期に会社へ相談し、記録を残しつつ適切な医療機関を受診しましょう。


リバティ総合法律事務所
弁護士 石上秀樹

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