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2026/06/29
退職・解雇

懲戒解雇の事由だけでなく、普通解雇の事由についても就業規則に記載する必要はあるのでしょうか。






 会社の就業規則を読ませていただくと、懲戒解雇の事由は細かく定めているが、普通解雇については『やむを得ない事由があるとき』程度の抽象的な規定しかないという例は少なくありません。しかし、就業規則に記載すべきなのは懲戒解雇事由だけではなく、普通解雇についても、その事由を適切に定めておくことが重要です。



 労働基準法89条3号を読むと、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則に退職に関する事項(解雇の事由を含む。)についても記載しなければならないと定めています。つまり、解雇事由は就業規則の絶対的必要記載事項で、記載がなければ、就業規則として法律上求められる内容を満たしていないことになります。労働基準法89条には「解雇の事由を含む」とのみ書かれていて、通常、解雇には普通解雇、整理解雇、懲戒解雇が含まれるため、普通解雇事由も記載対象となると解されています。





 ここで、会社が解雇権限を行使できるのは、就業規則に書かれている解雇事由が認められる場合に限るのか(限定列挙説)、それとも、就業規則上の解雇事由該当の事実ががなくても、客観的に合理的な理由さえあれば解雇できるのか(例示列挙説)という問題が提起されることがありますが、現在、ほとんどの就業規則において、「その他前各号に掲げる事由に準じる重大な事由」のような包括条項が最後に付いていることから、両説によって実際上の効果の違いはほとんどないとされています。ただ、就業規則に解雇事由が一切書かれていない場合は、限定列挙説に立つ限り、普通解雇をすることができないことになりかねません。そのような不利益を被らないためにも、就業規則への解雇事由の記載は必須と考えます。





 解雇処分については労働契約法16条に有効性についての規定があり、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上有効であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となる。」とされています。判例上認められてきた、いわゆる解雇権濫用法理を明文化した規定です。この16条が規定しているのは、「合理的な理由」、「社会通念上相当」というごく一般的な基準の要件のみになるので、実際の解雇をめぐる紛争では、個別具体的な事実関係の認定とそれに対する評価が重要な争点となって争われることになります。





 解雇の効力を争う訴訟の実際においては、使用者による「客観的に合理的な理由」の主張立証は就業規則上の解雇事由に該当する事実が存在することの主張立証として行われ、就業規則の解雇事由該当性が中心的争点となる。就業規則に解雇事由が列挙されていれば、それに基づかずに行われた解雇は「客観的に合理的な理由」なしと事実上推定されてしまうためである。そして、該当性ありとされる場合においても、なお当該解雇の相当性が検討される。

(引用:菅野和夫・山川隆一「労働法」第一三版)



 裁判所は解雇の有効性を判断する際、会社の就業規則にどのような解雇事由が定められているかを確認し、その事由に実際の事情が該当するかを検討することがほとんどです。就業規則に書かれている解雇事由は裁判における最初の判断材料になるのです。裁判での判断材料となることを前提に、就業規則にどの程度まで詳しく記載すべしておくべきでしょうか。安易に広すぎる規定を書けばよいというものでもありませんし、逆に狭すぎる規定を書けば会社自身が解雇できる範囲を限定してしまう可能性もあるでしょう。




 仮に、就業規則に「勤務成績が悪い場合には解雇できる」とだけ記載されている場合、このような抽象的な規定だけでは、解雇の合理性を十分に基礎づけることは困難です。一方で、「勤務成績が著しく不良で改善指導を行っても改善の見込みがなく、配置転換等によっても就業継続が困難であると認められる場合」などと定めておけば、会社としてどのような場合に普通解雇を予定しているのかが明確になります。就業規則に書いてあるから直ちに解雇できるわけではありませんが、就業規則に具体的な基準が存在することは、解雇の合理性を判断する上で重要な意味を持ちます。就業規則には、懲戒解雇だけでなく普通解雇についても、抽象的な表現にとどめることなく、実際の運用を踏まえた具体的かつ適切な解雇事由を定めておきましょう。




 言うまでもありませんが、就業規則は紛争が起きてから読むものではなく、紛争を未然に防ぐためのルールです。普通解雇事由についても、自社の実態に即した内容となっているか、定期的に見直すこと重要です。仮に、就業規則に書かれている解雇事由に該当する事実が存在するとされたとしても、それだけで直ちに普通解雇が有効と評価されるわけではありません。能力不足であれば教育や指導、配置転換の可能性を検討したか、勤務不良であれば改善指導を十分に行ったか、整理解雇であれば人員削減の必要性や解雇回避努力を尽くしたかなど、個別事情を総合的に判断することになります。就業規則は、会社が解雇できる場合を定めるものではありますが、実際に解雇が有効となるためには、労働契約法16条が要求する合理性と相当性を満たさなければなりません。日本においては従業員を解雇することは非常に難しいと言われていますが、その主な原因がこの労働契約法16条の存在だといっても過言ではありません。

令和8年6月29日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹



 

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