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2026/04/14
各種保険

引っ越しの手伝いのアルバイトをしています。仕事柄、重いものを持つことが多く、最近になり、腰痛に悩まされるようになってきました。病院には通っていないのですが、これって労災になるのでしょうか。




引っ越し業務は、冷蔵庫やタンスといった重量物を反復して運搬する作業が中心となり、身体、特に腰部への負担が大きい仕事です。このような作業環境では、急激な動作による腰痛だけでなく、日々の負荷の蓄積によって徐々に発症する腰痛も少なくありません。もっとも、腰痛は加齢や生活習慣、あるいはスポーツなど業務外の要因によっても生じるため、法律上は「仕事が原因である」といえるかどうかを慎重に見極める必要があります。その判断枠組みとして用いられるのが、厚生労働省が公表している「業務上腰痛の認定基準等について(昭和51年10月16日基発第750号)」です。







労災かどうかの判断は、「労働者災害補償保険法」に基づき、「業務上の事由」による疾病か否かという観点から行われます。この「業務上の事由」とは、平易に言えば「仕事が原因であること」、すなわち業務起因性の有無を意味します。

腰痛については、厚生労働省の認定基準により、大きく二つの類型に分けて判断されます。一つは、特定の出来事によって生じる「災害性の原因による腰痛」です。これは、例えば重い家具を持ち上げた瞬間に激しい痛みが生じた場合のように、原因となる出来事が特定でき、その直後に症状が現れるケースを指します。この場合には、出来事と症状との時間的な近接性や因果関係が明確であれば、労災と認められる可能性は比較的高いといえます。

これに対し、実務上より問題となるのが、「災害性の原因によらない腰痛」、すなわち徐々に発症する腰痛です。引っ越し作業に従事する方の多くは、この類型に該当する可能性があります。この場合、単に腰痛があるというだけでは足りず、業務の内容や負荷の程度、従事期間、さらには業務以外の原因の有無などを総合的に検討する必要があります。特に重要なのは、業務が相当程度強い身体的負荷を伴うものであったかという点です。重量物の反復運搬や不自然な姿勢の継続といった事情が認められる場合には、業務との関連性が肯定されやすくなりますが、こうした負荷が一定期間継続していることも求められます。数週間程度の短期間では足りず、一定の期間(おおむね3か月から数年以内)にわたり業務が続いていることが必要です。日常生活や既往症など、他に有力な原因が存在しないことも重要な判断要素となります。最終的には、医師の診断に基づき、症状と業務内容との関係が医学的に説明可能であるかどうかが判断されます。








ご相談のように、徐々に腰痛が生じている場合には、上記のうち「災害性の原因によらない腰痛」として検討されることになりますが、この類型は立証のハードルが比較的高いのが実情です。とりわけ、現時点で医療機関を受診していない場合には、医学的な裏付けが欠けているため、労災認定に必要な因果関係の証明が困難になります。そのため、実務的にはまず医療機関を受診し、診断を受けることが不可欠です。診断書やカルテは、業務との関連性を裏付ける重要な資料となります。また、日頃の業務内容について、どの程度の重量物をどのような頻度で扱っているのか、どのような姿勢で作業しているのかといった点を具体的に記録しておくことも重要です。


なお、アルバイトであっても労働者である以上、「労働者災害補償保険法」の適用対象となります。雇用形態を理由に労災が否定されることはありません。仮に、事業者が安全対策を怠り、過度な負担を強いていた場合には、「労働安全衛生法第3条」に基づく安全配慮義務違反が問題となる余地もあります。引っ越し作業による腰痛が労災に該当するかどうかは、厚生労働省の認定基準に基づき、災害性の有無や業務負荷の程度、継続性、他原因の有無、そして医学的裏付けといった要素を総合的に判断して決定されます。特に徐々に発症する腰痛の場合には、業務との関連性を客観的示すことが重要になりますので、適切な受診と記録の蓄積によって、認定の可能性を高める必要があります。



リバティ総合法律事務所 石上秀樹

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