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2026/08/24
賃金・労働時間

弊社の従業員の給料を差し押さえるとの通知が裁判所から届いたのですが、会社としてどのように対応すればよいのでしょうか





 従業員の給与について、裁判所から会社宛てに突然、債権差押命令が届くことがあります。人事や総務の担当者にとってはなじみのない書類なので、従業員個人の借金の問題なのになんで会社に裁判所から書類が届くのかと、場合によっては、裁判所を名乗った流行りの詐欺かと怪しまれることもあるかもしれません。通常、給与が差し押さえられた場合、会社は第三債務者という立場になり、差押命令に従った対応をする必要があります。もし処理を誤り、差押えの対象となっている給与を従業員に支払ってしまうと、会社が債権者から支払いを求められることもありえることから、そのような命令が届いた場合は、処理を誤らないよう慎重に対応しなければなりません。


 



 まずは、裁判所から届いた書類の内容をしっかり読みましょう。「当事者目録」、「請求債権目録」、「差押債権目録」などにも目を通してください。誰の給与が差押えの対象なのか、どの範囲の給与が対象なのか、請求額はいくらなのかを確認する必要があります。差押命令と一緒に、陳述催告書や陳述書が入っていることもありますが、これは、債権者が会社に対し、この従業員を本当に雇っていますか、給与はいくらですか、ほかにも差押えを受けていますかといった事情を確認するための書類なので、従業員の在籍状況や給与の支給状況などを確認し、書面に記載された期限と提出方法に従って回答する必要があります。従業員に対し、裁判所からこんな書類が届いたでと報告すると、従業員から、会社には迷惑をかけないので何もしないで無視してくださいとか、退職したことにしてくださいなどと頼まれることがあるかもしれませんが、会社が虚偽の回答をすることはできません。会社に差押命令が届いた後は、差し押さえられた部分については従業員本人に払ってはいけないことになります。給与振込をシステムで一括処理している会社においては、差押命令を受け取ったらすぐに給与担当者に連絡し、従来どおり給与全額を振り込んでしまうことのないよう注意しなければいけません。






 給与は従業員本人やその家族の生活の基盤です。民事執行法によると、一般的な金銭債権による給与差押えであれば、原則として手取り金額の4分の3は保護され(本人に支払う)、差押えの対象にできるのは残りの4分の1の部分だけに制限されています。ただし、手取額が44万円を超えるような高い給料をもらっているような場合には、33万円を超える部分がすべて差押えの対象となります。例えば、税金や社会保険料などを控除した後の給与が30万円であれば、その4分の1である7万5000円が差押えの対象となり(原則)、手取額が50万円であれば、単純に4分の1の12万5000円ではなく、33万円を超える17万円が対象となるのです。






 給与差押えというと、借金でも滞納したんかと思いがちですが、養育費や婚姻費用が支払われていないために給与が差し押さえられるというケースもあります。そのような場合であれば、通常の借金による差押えとは計算方法が異なり、手取り額の2分の1まで差し押さえることができるようになります。ただし、この場合も、手取額が66万円を超えるような高い給料をもらっているような場合には、33万円を超える部分がすべて差押えの対象となります。会社としては、給与の差押えだから4分の1のみ対象と機械的に処理するのではなく、請求債権目録や差押債権目録などを読み、何の債権について差押えが行われているのかしっかり確認するようにしましょう。




 

 注意が必要なのが、差押命令が届いたからといって、その日のうちに会社から債権者へ送金しないといけない訳ではないという点です。一般の金銭債権の場合、原則として債務者本人に差押命令が送達されてから4週間(養育費等の扶養義務に関する債権の場合は1週間)を経過してはじめて、債権者が会社から取り立てることが可能となります。給与については差押え後に受けるべき給付にも差押えの効力が及ぶので、差押命令を受け取った直後の給与だけ債権者に支払ったらよいという訳ではなく、通常は次回以降の給与についても差押えの効力は続きます。どこまで続くかは、請求額やその後の取立状況などによりますが、会社としては、毎月の支払額を管理し、漫然と差押えを続けたり、反対に途中で勝手に止めたりしないよう注意しましょう。差押債権目録の記載によっては、毎月の給与だけでなく賞与や退職金が対象に含まれていることもあるので、その場合は、賞与や退職金を通常どおり支払ってよいか、差押え禁止の範囲はどこまでなのか、慎重に検討する必要があります。





 

 

 給与差押えの対応で怖いのは、いつもの処理をそのまま続けてしまうことです。給与振込日が近いときは、差押命令を受け取った部署から給与担当者への連絡を急ぐ必要がありますが、一方で、必要以上に従業員を問い詰めたり、借金の事情を社内で詮索したりする必要はありません。会社が確認すべきなのは、裁判所から届いた書類の内容と、その従業員に関する雇用・給与の事実関係です。特に、複数の差押えが重なった場合や養育費の差押えが含まれている場合、退職や退職金の支払いが予定されている場合などは、判断が難しくなるので、そのようなときは自己流で処理せず、裁判所に手続を確認したり、弁護士に相談したりするのが安全です。裁判所から見慣れない封筒が届くと身構えてしまいがちですが、会社が従業員の借金そのものを肩代わりしたり、なにか責任を負わされたりするような制度ではありません。第三債務者として求められていることを一つずつ確認し、給与計算と裁判手続を正確に処理する、それが会社としての基本的な対応になります。



令和8年8月24日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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