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事業所内で従業員の財布が盗まれ、犯人が同じ従業員であることが判明した場合、多くの企業では「直ちに懲戒解雇すべきではないか」という議論が生じます。確かに、職場内窃盗は信頼関係を著しく損なう重大な非違行為です。しかし、懲戒処分は感情や印象で決めるものではなく、法令と客観的基準に基づいて判断しなければなりません。
民間企業の懲戒処分は、主として労働契約法第15条により規律されます。同条は、懲戒が「客観的に合理的な理由」を欠き、かつ「社会通念上相当でない」場合には無効と定めています。いわゆる「懲戒権濫用法理」です。また、懲戒解雇に至る場合には、同法第16条(解雇権濫用法理)も問題となります。要するに、
などを総合考慮し、「重すぎないか」を判断する必要があります。
国家公務員については、国家公務員法第82条に基づき懲戒が行われ、その運用基準として人事院が「懲戒処分の指針」を定めています。同指針では、窃盗は「公務外非行関係」に分類され、標準的な量定は、「免職又は停職」とされています。
ここで重要なのは、「免職」と断定していない点です。
停職(一定期間職務に就かせない処分)を選択する余地が明示されていることは、事案により処分の重さを調整すべきことを意味します。
本件では、
という事情があります。窃盗は刑法上、刑法第235条の犯罪であり、違法性は明白です。しかし、量刑判断と同様、懲戒の重さも個別事情により変わります。
仮に被害額が高額でなく、計画性や常習性が認められない場合、最重度処分である懲戒解雇が常に相当とは限りません。
無施錠であったことは窃盗の違法性を否定しませんが、職場管理体制の不備という側面も否定できません。組織としての再発防止策が重要になります。
裁判例においても、初犯で被害弁償がなされ、深い反省が認められる場合には、懲戒解雇が無効とされた例があります。懲戒は「制裁」であると同時に「教育的機能」も有します。
人事院指針が「免職又は停職」としていることは、窃盗であっても直ちに組織から排除しなければならないとは限らない、という政策判断を示しています。仮に、
といった事情が認められるのであれば、出勤停止(停職)処分により十分に規律目的は達成可能と考えられます。出勤停止とは、一定期間就労を禁止し、その間の賃金を支払わない処分です。企業秩序に対する重大な警告として機能します。一方、懲戒解雇は労働者の生活基盤を奪う最終的手段です。比例原則(処分は目的に対し過度であってはならないという原則)に照らせば、常に最重度処分を選択することは適切ではありません。
出勤停止を選択する場合でも、
が不可欠です。また、再発防止策として、
などを併せて講じることが望まれます。
事業所内窃盗は重大な非違行為であり、軽視すべきではありません。しかし、人事院の「懲戒処分の指針」が示すとおり、窃盗は一律に免職とされるものではなく、「免職又は停職」とされています。民間企業においても、労働契約法第15条の「合理性・相当性」判断を踏まえれば、個別事情次第では出勤停止処分が相当と評価される余地は十分にあります。
本件のように、初犯で反省が顕著であり、被害回復がなされている場合には、比例原則に照らし、出勤停止という重いが再起可能な処分を選択することが、法的にも実務的にも安定的な対応といえるでしょう。懲戒は「排除」ではなく「秩序維持と再発防止」のための制度です。処分の重さを冷静に見極めることこそが、企業の法的リスク管理の核心といえます。
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