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物価上昇や都市部の家賃高騰を背景に、福利厚生の一環として住宅手当の新設を検討する企業が増えています。住宅手当は採用力や定着率の向上に資する一方、対象者の選定基準を誤ると法的リスクを生じる可能性があります。
前提として、住宅手当は労働基準法第11条に定める「賃金」に該当します。したがって、支給対象や金額は企業の裁量に委ねられますが、その裁量は無制限ではありません。また、正社員とパート・有期社員の間で差を設ける場合には、パートタイム・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇差の禁止)が問題となります。同条は、職務内容や人材活用の仕組みが同じであるにもかかわらず不合理な差を設けることを禁止しています。さらに、男女間の差別は労働基準法第4条で禁止されています。
最初に行うべきは、「なぜ住宅手当を支給するのか」という制度目的の明確化です。主な類型は次のとおりです。
目的が定まらなければ、合理的な対象基準は設計できません。
① 転勤義務の有無
全国転勤義務がある社員に限定して支給する方法です。職務内容や人材活用の仕組みに差があるため、合理性が認められやすい基準です。
② 世帯主・賃貸契約者要件
実際に住居費を負担している社員に限定する方法です。住宅費補助という趣旨と整合します。
③ 勤務地域による区分
都市部など家賃水準が高い地域に勤務する社員に支給する方法です。地域手当との組み合わせも考えられます。
④ 若年層限定支給
一定年齢以下に限定する制度もありますが、年齢のみを基準とする場合は慎重な検討が必要です。目的との関連性が説明できなければ不合理と評価される可能性があります。
「将来有望だから」「会社への貢献度が高いから」といった抽象的基準のみで対象を選ぶことは、恣意的運用と評価されるリスクがあります。
例えば「男性世帯主のみ支給」といった制度は、労働基準法第4条に違反します。また、未婚者を一律に排除することも、合理性が乏しい場合には問題となり得ます。
正社員にのみ支給し、パート・有期社員に全く支給しない制度とする場合は、パートタイム・有期雇用労働法第8条との関係で合理性が求められます。職務内容や転勤範囲が同一である場合には、説明が難しくなります。
労働基準法第89条により、賃金に関する事項は就業規則に記載する必要があります。支給要件・金額・計算方法・支給停止事由を明確に規定します。
「賃貸契約書の提出」「住民票による確認」など、客観的に確認可能な要件とすることが重要です。
将来的に住宅手当を縮小・廃止する場合は、労働契約法第10条の合理性が厳しく問われます。
生活補助的性格が強いため、不利益性が大きいと判断されやすい点に注意が必要です。
住宅手当は原則として課税対象となり、社会保険料算定の基礎にも含まれます。借上社宅制度との比較検討も実務上は重要です。
住宅手当の対象者選定において最も重要なのは、制度目的と基準との整合性です。
住宅手当は単なる福利厚生ではなく、賃金制度の一部です。一度導入すれば恒常的コストとなり、将来の変更は容易ではありません。制度設計段階で法的妥当性と運用可能性を十分に検討することが、持続可能な人事制度構築の鍵となります。
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