-1.jpg)
近年、政府の働き方改革の流れを受けて、従業員の「副業・兼業」を認める企業が増えています。特に人材確保やスキル向上の観点から、副業を前向きに捉える企業も多くなりました。もっとも、企業が副業・兼業を認める場合には、労働時間管理、情報漏えい、利益相反など、さまざまな法的リスクにも配慮する必要があります。実際、副業制度を導入する際に「どこまで認めてよいのか」「会社としてどのような管理が必要か」と悩む企業も少なくありません。
副業・兼業については、厚生労働省が2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、企業に対して原則として副業を認める方向での制度整備を促しています。従来、日本企業では「就業規則で副業禁止」とするケースが一般的でしたが、現在では、副業を通じたスキル習得や人材流動化を促進する政策のもと、企業側にも柔軟な制度設計が求められています。もっとも、法的に企業が必ず副業を認めなければならないわけではありません。企業は労務管理や企業秩序の維持の観点から、合理的な範囲で副業を制限することが可能です。
まず重要なのは、法律上「副業を一律に禁止する明文規定」は存在しないという点です。一方で、労働契約関係では、従業員には会社に対する「誠実義務(信義則)」があり、企業秩序を害する行為は制限されます。これは労働契約法第3条第4項(信義誠実の原則)にも関連します。また、企業側は就業規則に基づき、一定の合理的理由がある場合には副業を制限することができます。たとえば次のような場合です。
副業・兼業を認めるにあたって最も問題となるのは「労働時間管理」です。労働基準法第38条第1項は、労働時間の通算を定めています。これは、同一労働者が複数の事業場で働く場合、労働時間は通算して法定労働時間(1日8時間・週40時間)を判断するというルールです。つまり、副業・兼業先の労働時間も含めて、法定労働時間を超えた場合には時間外労働として扱われる可能性があり、時間外労働をさせるためにはいわゆる36協定の締結が必要になります。副業・兼業がある従業員については、会社として労働時間の把握方法をあらかじめ決めておく必要があるでしょう。具体的には、①副業・兼業時間の自己申告制度、②副業・兼業先の労働時間の報告義務、③上限時間の設定などの制度を設けることなどです。制度を設計せずに副業・兼業を認めると、企業が予期せぬ残業責任を負うリスクがあるので要注意です。
副業・兼業を認めるにあたり、「企業秘密の保護」も重要なポイントとなります。例えば、同業他社で副業・兼業を行う場合、自社の営業情報や技術情報が漏えいするリスクがあります。このような行為は、不正競争防止法2条1項7号(営業秘密の不正取得等)に関係する可能性もあり、また、会社の利益と対立する副業・兼業(競業)は、企業秩序を害する行為として懲戒対象となる場合もあります。そのため、①競業企業での副業・兼業は禁止、②機密情報の利用禁止、③副業・兼業の事前申請・許可制というルールを決めている会社も多いです。
企業には、従業員の安全や健康を守る「安全配慮義務」があり(労働契約法5条)、仮に、副業・兼業によって長時間労働が続き、健康障害が発生した場合、企業が安全配慮義務違反を問われる可能性があります。特に、深夜の副業・兼業、長時間労働の副業・兼業、休息時間が不足する働き方をしている場合などは要注意です。そのため、企業としては、副業・兼業を認める場合でも、健康管理の観点から一定の制限を設ける必要があります。
企業が副業・兼業制度を導入するにあたり、一般的に、次のような制度設計が望ましいとされています。
①副業の許可制
事前申請・許可制とし、副業・兼業内容を把握します。
②副業の禁止類型の明確化
競業・機密情報漏えいなど、禁止する副業・兼業を明示します。
③労働時間の報告制度
副業・兼業時間の自己申告を義務付けます。
④就業規則の整備
副業・兼業規定を就業規則に明確に記載します。
副業・兼業の解禁は、人材活用や従業員のスキル向上につながる可能性がある一方、上述のように、企業側には新たな労務管理の課題が生じます。特に企業が注意すべきポイントは次の4点です。
副業・兼業制度を円滑に運用するためには、就業規則の整備と社内ルールの明確化が不可欠です。自社の就業規則の内容で問題はないか不安に思われる場合は、いつでも弊所までご相談ください。