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2026/04/10
その他(労務関連)

弊社では、障害者雇用促進法に基づき精神障害者保健福祉手帳をもっている障害者を雇用しているのですが、業務を遂行してもらうにあたって事業主が注意すべきところを教えてください。





精神障害者保健福祉手帳を有する方を雇用する場合、事業主として最も重要なのは、「一般社員と同様に扱うべき部分」と「合理的配慮として調整すべき部分」とを適切に峻別することにあります。障害者雇用促進法は、単に雇用機会を確保することにとどまらず、職場において能力を発揮できる環境整備を求めており、その中核概念がいわゆる合理的配慮です。もっとも、合理的配慮は無限定に事業主へ負担を課すものではなく、「過重な負担」とならない範囲で実施されるべきものであり、このバランスをいかに実務で具体化するかが問われます。



精神障害の特性として理解しておくべきは、外見からは把握しにくく、かつ症状の変動が大きい点です。身体障害の場合と異なり、業務遂行能力が日によって変わることも少なくありません。そのため、単に業務指示を与えるだけではなく、業務の内容・量・期限について柔軟な設計が求められます。例えば、業務を細分化し、優先順位を明確にしたうえで段階的に指示を出すことや、口頭だけでなく書面やチャット等で指示内容を可視化することは、理解の齟齬を防ぐうえで有効です。これは特別扱いというよりも、業務遂行の確実性を高めるための合理的な工夫と位置付けることができます。



また、勤務時間や勤務形態に関する配慮も重要です。精神障害の場合、通院や服薬の影響により、一定の時間帯に体調が不安定となることがあります。この点を踏まえ、時差出勤や短時間勤務、在宅勤務といった柔軟な働き方を検討することが、結果として安定した就労につながる場合があります。もっとも、これらは無条件に認められるべきものではなく、業務の性質や職場全体への影響を踏まえたうえで、個別具体的に判断する必要があります。



さらに見落とされがちなのが、コミュニケーションのあり方です。精神障害を有する従業員の中には、抽象的な表現や曖昧な指示に対して不安や混乱を感じやすい方もいます。そのため、指示や評価はできるだけ具体的かつ客観的に示すことが望まれます。また、叱責や指導の方法についても配慮が必要であり、強い口調や感情的な言動は症状の悪化を招くリスクがあります。もちろん、業務上の指導自体が制限されるわけではありませんが、その伝え方には一層の注意が求められます。



他方で、事業主として留意すべきは、過度な配慮がかえって職場内の公平感を損なうおそれがある点です。合理的配慮はあくまで「必要かつ適当な範囲」にとどまるべきであり、他の従業員に過重な負担を転嫁するような形での対応は望ましくありません。この点については、配慮の内容や理由を一定程度職場内で共有し、理解を得ることも必要かもしれません。ただし、個人の病状に関するプライバシーには最大限の配慮が必要であり、情報の取り扱いには細心の注意を払う必要があります。




体調不良による欠勤や遅刻への対応も難しい問題です。精神障害の場合、突発的な不調により就労が困難となることがあり得ます。このような場合に、形式的に就業規則を適用して直ちに不利益処分を行うのではなく、まずは状況を把握し、必要に応じて産業医や主治医の意見を踏まえた対応を検討することが求められます。特に、休職制度の運用や復職判断においては、医学的所見と業務適性の双方を踏まえた慎重な判断が必要です。



さらに、採用段階や配置転換の場面においても配慮は及びます。精神障害の特性に適合しない業務に配置した場合、本人の能力発揮が困難となるだけでなく、症状の悪化を招くおそれもあります。本人の希望や適性を踏まえた職務設計を行うことが、結果として企業側にとっても合理的といえます。重要なのは、これらの対応が単なる法令遵守にとどまらず、職場全体の生産性や定着率の向上にも資するという点です。精神障害を有する従業員に対する適切な配慮は、結果として他の従業員にとっても働きやすい環境の整備につながることが多いです。事業主としては、個別の対応に終始するのではなく、職場全体のマネジメントの一環として障害者雇用を位置付け、継続的に改善を図っていく姿勢が求められています。

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