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2026/07/04
賃金・労働時間

弊社では、賞与はフルタイムの正社員のみ支給し、契約社員やパートには支給していませんが、その区別を労基署から問題視されることはあるのでしょうか。






 賞与は正社員だけに支給し、契約社員やパートタイム労働者には支給しないという制度を採用している企業は、現在でも少なくありません。従来は、このような取扱いが当然視される場面もありましたが、近年は同一労働同一賃金の考え方が法制化されたことにより、雇用形態のみを理由とした待遇差については、慎重に検討しなければならなくなっています。



 賞与自体は、法律上、必ず支給しなければならないと定められているものではありません。労働基準法には、毎月支払われる賃金についてのルールは定められていますが、賞与の支給義務までは規定されていません。ですので、賞与を支給するかどうか、どのような基準で支給するかは、就業規則や賃金規程、労働契約などによって企業が自由に定められることが基本となります。しかし、いったん賞与制度を設けた場合は、その運用は自由というわけではありません。現在は、短時間・有期雇用労働法(正式名称「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)8条により、不合理な待遇差が禁止されています。


 同条は、通常の労働者と短時間労働者・有期雇用労働者との間で基本給、賞与その他の待遇について相違を設ける場合には、その相違が「職務の内容」「職務の内容及び配置の変更の範囲」「その他の事情」を考慮して不合理であってはならないと定めています。また、同法14条では、事業主は短時間・有期雇用労働者から待遇差の内容や理由について説明を求められた場合には、説明義務を負うこととされています。言うまでもなく、昔からそうしている、正社員ではないからという説明だけでは足りません。





 質問内容に書かれている労基署から問題視されるのかという点に関しては、この問題は必ずしも労働基準監督署が中心的に監督する事項ではありません。労働基準監督署は、主として労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法などの遵守状況を監督する行政機関です。同一労働同一賃金の遵守に関する行政指導は、主として都道府県労働局が担当しています。ですので、契約社員やパートタイム労働者への賞与不支給について、労基署が直ちに是正勧告を行うケースは一般的ではありません。ただし、最近では、労働基準監督署の監督官が企業訪問し調査を実施する際に、同一労働同一賃金の状況について合わせて確認をしていて、その確認内容を都道府県労働局へ提供、労働局が助言指導を行うというケースもあります。




 賞与を支払う会社として注意すべきなのは、賞与制度の趣旨が明確になっているかという点です。例えば、賞与を会社業績への貢献や将来的な中核人材としての期待、長期勤続へのインセンティブとして位置付けているのであれば、その内容が就業規則や賃金規程、人事制度などで明確に整理されていることが必要です。一方で、契約社員やパートタイム労働者も正社員とほぼ同じ業務を担当し、責任の程度も変わらず、人事異動もほとんどなく、実質的な働き方が同じであるにもかかわらず、正社員ではないという理由だけで一律に賞与を支給しない制度になっている場合には、不合理な待遇差と評価されるリスクが高いでしょう。




 近年は、人材確保の観点から、賞与制度の見直しを進める企業が増えていて、例えば、正社員と同額の賞与ではなくても、勤務日数や労働時間、評価結果などに応じて一定割合の賞与を支給する制度を導入する企業も少なくありません。このような制度設計は、法的リスクの軽減だけでなく、従業員のモチベーション向上や人材定着にもつながる可能性があります。令和3年4月からは中小企業にも同一労働同一賃金の制度が全面適用されており、雇用形態による待遇差について説明責任を果たすことが従来以上に重要になっています。厚生労働省が公表している「同一労働同一賃金ガイドライン」でも、賞与については、支給目的との関係で合理性を個別具体的に判断すべきであると示されています。



 賞与は正社員だけに支給しているという制度そのものが直ちに違法になるわけではありませんが、短時間・有期雇用労働法8条との関係で、その待遇差について合理的な説明ができるかどうかが重要な判断基準となります。企業としては、賞与制度の目的や対象者を就業規則や賃金規程で明確化するとともに、実際の職務内容や責任、配置変更の範囲との整合性を定期的に検証することが重要です。将来の労使紛争の発生を予防するためにも、制度を従来どおり運用するだけではなく、その合理性を説明できる状態にしておきましょう。


令和8年7月4日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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