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企業の人事や労務を担当している方であれば、就業規則を変更する際には、過半数労働組合や労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないと聞いたことがある方も多いと思います。ただ、相手方が同じであることもあり、36協定などの労使協定と何が違うのか、代表者の署名があれば同じではないのかという疑問を持つことも少なくありません。実は、就業規則の変更時に行う意見聴取と、労使協定の締結は、法律上はまったく異なる制度です。どちらも労働者代表等が関与するため混同されやすいのですが、その法的な意味や効果には大きな違いがあります。
就業規則の作成・変更に関する基本ルールは、労働基準法90条に定められています。同条は、使用者が就業規則を作成または変更し、労働基準監督署へ届け出る際には、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は、労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないと規定しています。ここで重要なのは、意見を聴くことが義務であって、同意を得ることが義務ではないという点です。例えば、賃金規程や服務規律を見直す場合、会社は労働者代表等に変更案を示し、意見を求める必要がありますが、労働者代表が反対したとしても、それだけで就業規則の変更ができなくなるわけではありません。実務上は、意見書に「異議なし」と記載されるケースもあれば、「反対」「異議あり」と記載されるケースもあるでしょう。意見聴取という手続自体が適正に行われていれば就業規則の届出が可能なのは、この制度自体、労働者側に拒否権を与えるものではなく、就業規則の内容について労働者の意見を反映させる機会を確保することを目的としているからです。
これに対して、労使協定は使用者と労働者側が合意して締結する協定です。代表的なものとしては、時間外労働・休日労働に関する36協定(労働基準法36条)があります。本来、労働基準法は法定労働時間を超える残業や法定休日労働を原則として禁止していますが、36協定を締結し労働基準監督署へ届け出ることで、その例外として残業や休日労働が可能となるのです。ここで必要なのは、さきほどとは異なり、意見を聴くことではなく、協定を締結することです。労働者代表が協定への署名や記名押印を拒否すれば、協定は成立しません。会社が一方的に作成しても効力は生じません。なぜなら、労使協定は労働者側の合意そのものが制度の成立要件になっているからです。この点が、就業規則変更時の意見聴取との最も大きな違いといえます。
なぜ同じ過半数代表者(過半数労働組合)なのに役割が違うのでしょうか。意見聴取と労使協定の両方で登場するのが、過半数代表者(過半数労働組合)ですが、同じ代表者であっても、その役割は制度によって異なります。就業規則の意見聴取では、労働者の意見を会社へ伝える役割を担う一方、労使協定では、労働者側当事者として会社と契約を締結する立場になります。前者は意見表明の機会を保障する制度であり、後者は双方の合意を前提とする制度であるため、法律上の位置付けが大きく異なるのです。ここで注意が必要なのが、意見聴取をしたから就業規則変更が常に有効になるわけではないという点です。労働契約法第10条は、就業規則による労働条件の不利益変更について一定の制限を設けていて、労働者に不利益な変更を行う場合には、①変更の必要性、②変更後の内容の相当性、③労働組合等との交渉状況、④その他の事情などを総合的に考慮して合理性が認められなければならないとされています。ですので、賃金引下げや退職金削減などは、就業規則を変更しただけで当然に有効になるわけではありません。労働基準法90条の意見聴取はあくまで手続的要件であり、変更内容そのものの有効性を保証する制度ではないからです。
なお、労働基準法施行規則によると、過半数代表者は管理監督者以外の労働者から選出されなければならず、かつ協定締結や意見聴取を行う者であることを明らかにしたうえで民主的な方法により選出される必要があります。ところが、実際には、「会社が勝手に指名している」、「毎年同じ人が自動的に選出されている」、「社長秘書や部長等の代表に近い立場の人物がなっている」といったケースが例が散見されます。これらは適法な選出とは認められない可能性があり、労使協定の場合ですと無効と判断されかねず、また、就業規則の届出の場合であれば、行政指導の対象になったり、場合によっては、変更後の就業規則の内容が労働契約の内容として認められないこともあり得ます。実際の選出過程については、法令上問題ないか、慎重に検討する必要があります。
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹