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2026/09/15
その他の労働条件

就業規則と定型約款って、画一的処理という意味では似ているように思うのですが、どのようなところが違うのでしょうか



 就業規則と約款って確かに似ているようにも感じますが、厳密には、就業規則は民法上の定型約款ではないとされています。いずれも、一方当事者が多数の契約関係に適用するため、あらかじめ画一的な条件を設定するものであるという点では同じではありますが、なぜ異なるとされているのでしょうか。





 就業規則は、使用者が事業場における労働条件や職場規律を統一的に定める規則のことで、労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と行政官庁への届出を義務付け、90条は、その作成・変更に際して労働者の過半数代表者等から意見を聴くことを要求しています。これらの規定は、就業規則の作成手続に関する規定で、より重要なのは、就業規則が個々の労働契約に対して、どのような法的効果を持つかという点です。





 この点について、最高裁は、合理的な労働条件を定めた就業規則が労働者に周知されている場合、個々の労働者がその内容を知らなかったり、個別に同意していなかったりしても、原則としてその適用を拒むことはできないとの考え方を示しました。この判例法理を成文化したものが、現在の労働契約法7条です。同条は、労働者と使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件を定めた就業規則を労働者に周知させていたときは、その就業規則で定める労働条件が労働契約の内容になるとしています。民法上の契約は、基本的には当事者の意思表示の合致、すなわち合意によって成立しますが、就業規則の場合、労働者が一つ一つの条項について明示的に同意していなくても、合理性と周知という要件を満たせば、就業規則が労働契約の内容となり得るところが決定的な違いです。




 この構造は、民法上の定型約款と似ているところもあり、民法548条の2は、定型約款を契約内容とする旨の合意がある場合には、個々の条項について相手方が具体的に認識していなくても、その各条項について合意したものとみなすとしています。現代の大量・継続的な契約関係では、一件ごと、一条項ごとに個別交渉を行うことは現実的ではないので、あらかじめ設定された画一的条件を一定の要件のもとで契約内容に取り込むことによって、契約関係を効率的かつ安定的に処理する必要から認められています。就業規則も、こうした契約条件の画一化という要請に応える仕組みと評価することもできるかもしれません。




 ここで重要なのは、定型約款については、民法第548条の2は一定の場合に各条項について合意をしたものとみなすとしているところです。これに対して労働契約法7条は、合理性と周知を要件として、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となると規定しています。就業規則の効力は、単に労働者が黙示的に同意したからと説明されているのではなく、仮に合意していなかったとしても、労働契約法が就業規則に契約内容を形成する法的効果を認めているのです。ここが定型約款との決定的な違いです。契約条件を後から変更する場面では、この就業規則特有の規律がより鮮明になります。労働契約法9条は、使用者が労働者との合意なく就業規則を変更し、それによって労働者に不利益に労働条件を変更することを原則として認めていませんが、10条は、変更後の就業規則を周知させ、変更が合理的なものである場合には、例外的に変更後の就業規則を労働契約の内容とすることを認めています。つまり、個別の合意がなくても労働条件の変更が可能ということです。



 

 定型約款にも変更制度はあり、民法第548条の4によると、変更が相手方一般の利益に適合する場合、または契約目的に反せず、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更条項の有無などに照らして合理的な場合には、個別の合意なしに定型約款を変更できるとされています。一方、労働契約法10条では、労働者が受ける不利益の程度や労働組合等との交渉状況についても明文で考慮要素とされていますが、これは、使用者と労働者の交渉力の格差や、労働条件が労働者の生活基盤そのものに直結することを踏まえた、労働法独自の規律といえるでしょう。




 就業規則と定型約款は、一方当事者が多数の契約関係に適用する条件をあらかじめ設定し、一定の要件のもとで個別契約の内容とする点で、近い機能を持っていることは否定できませんが、両者の背後にある理念は大きく異なります。一般契約法が約款を必要とする最大の理由は、大量取引を効率的に処理する必要性にあるのに対して、就業規則には、企業組織における労働条件の統一的処理という必要性、及び、使用者と労働者との交渉力の格差を踏まえ、労働者の労働条件を保護するという要請があります。就業規則と定型約款は、ともに社会に不可欠な契約条件の画一化の仕組みでありますが、その画一化を正当化し、また制約する法理には、それぞれ労働法と一般契約法の性格の違いが表れています。



令和8年9月15日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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