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2025/08/29
その他(労務関連)

医師の労働問題

日本の医師は、他の職業に比べて著しく労働時間が長いことで知られています。


厚生労働省の調査(2021年度)によると、勤務医の月平均残業時間は80時間以上に及ぶことも多く、これは過労死ライン(残業80時間/月)を上回る水準です。医師の労働時間が長くなる傾向があるのは、以下のような理由があるとされています。



・医師法により診療義務が課されており、自己裁量による業務調整が難しい

・夜間・休日の急患対応が必要

・地域によっては医師数が少なく、少数の医師が多くの業務を抱える




厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会」(2019年報告書)において、医師が必ずしも行う必要のない業務を他職種に移すことを提言しました。これに基づき、医療法や医師法の解釈を踏まえながら、看護師・薬剤師・医療クラークなど多職種との連携が進められています。


また、2024年4月、医師に対する以下のような時間外・休日労働の上限も導入されています。


  • 一般水準:年間960時間以内の時間外・休日労働。

  • 地域医療確保水準(A水準・B水準):救急医療や地域医療を担う病院などに限り、年間1,860時間まで認められる特例。健康確保措置の実施や都道府県の確認が必要です。

  • 研修医水準:臨床研修の必要性から、別枠の規制が設けられています。



この医師の時間外労働上限規制の開始により、現場では、業務分担を実行しなければ医療現場が立ち行かなくなるという危機感が強まっています。


① 診療補助行為

医師法第17条は「医業は医師でなければ行ってはならない」と規定しており、診断・治療行為そのものは医師に専属していますが、診療補助行為については看護師や薬剤師などが一定の条件下で従事できる仕組みが整えられています。



② 看護師・特定行為研修制度


「保健師助産師看護師法」改正により、研修を受けた看護師(特定行為研修修了者)は、医師の包括的指示の下で、一定の診療補助(例:薬剤投与、検査の実施)を行うことが認められています。



③ 医療クラーク・事務作業補助者


診断書作成補助や電子カルテ入力、検査予約など、医師以外でも可能な事務作業を担う職種として、医療クラークの活用が進んでいます。厚労省も診療報酬上の加算(医師事務作業補助体制加算)を設け、導入を推進しています。



実務的な効果


1. 医師の負担軽減


業務分担の推進により、医師は「診断・治療」という本来業務に集中できるようになります。これは医療の質向上にも直結します。ただし、医師の専権業務と診療補助の境界は曖昧であり、違法な医業行為(医師法17条違反)に該当しないよう注意が必要です。業務分担を進める際には、マニュアル整備や責任範囲の明確化が欠かせません。



2. 他職種の専門性向上


タスクシェアを通じ、看護師や薬剤師、放射線技師などが専門的なスキルを拡大し、医療チーム全体の機能強化につながります。


医師業務の外部委託や補助行為が問題となった裁判例では、患者に重大な結果が生じた場合、最終的な責任は医師・病院にあると判断される傾向があります。つまり、業務分担を進めても、医師が監督責任を免れることはできません。一方で、過労死訴訟においては「医師に過大な事務作業を課していたこと」が過重労働認定の一因とされた例もあり、業務分担を怠ること自体が病院のリスクともなり得ます。



医師の働き方改革を実現するには、時間外労働の上限規制に対応するだけでなく、業務分担の徹底が不可欠です。医師法の制約を理解しつつ、看護師の特定行為、医療クラークの活用などを適切に組み合わせることが求められます。将来的には、AIの活用も考えられるでしょう。
最終責任は医師に残るものの、チーム医療としての業務分担を実現することで、医師の健康を守り、同時に、安全で質の高い医療を提供することが可能になることが期待されます。




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