-2.jpg)
業務中や通勤途中の事故によって身体に障害が残った場合、労働者は労働者災害補償保険法に基づく障害(補償)等給付の対象となる可能性があります。一方で、その障害が一定の程度に該当すれば、身体障害者福祉法に基づく身体障害者手帳の交付を受けることも考えられます。どちらも障害に基づく等級ということで、労災で障害等級第○級と認定されたのであれば、身体障害者手帳も同じ等級になるのではないか考えておられる方が一定数おられます。しかし、労災保険における障害等級と身体障害者福祉法に基づく身体障害者手帳の等級は、どちらも同じ身体障害を対象としていますが、法律上は相互に連動している訳ではなく、制度の目的、法的根拠、認定基準もそれぞれ異なります。
労災保険制度は、労働者災害補償保険法に基づく公的保険制度で、業務災害又は通勤災害によって労働者が負傷、疾病にかかった場合に必要な給付を行うことを目的としています。単に身体機能が低下しているというだけではなく、その障害が労働災害によって生じたもので、残存した障害が法令上の障害等級に該当することが必要となります。障害(補償)等給付は、治療を継続しても医学上これ以上の回復が期待できない状態、いわゆる症状固定と判断された後に障害が残った場合に支給され、障害等級は第1級から第14級まであり、具体的な内容は労働者災害補償保険法施行規則別表第一の障害等級表に規定されています。この等級は、厚生労働省が公表している障害認定必携に書かれている基準等に基づき、関節の可動域、筋力、神経障害、視力や聴力の程度などについて詳細な医学的評価を行った上で、労働基準監督署長が認定します。
これに対し、身体障害者手帳は、身体障害者福祉法15条に基づいて交付され、その目的は障害のある人に対して必要な福祉サービスを提供し、自立した生活や社会参加を支援することにあります。身体障害者手帳の交付を受けることによって、補装具費の支給、各種福祉サービスの利用、税制上の優遇措置、公共交通機関の運賃割引など、さまざまな支援制度を利用できるようになります。この制度は障害そのものに着目して福祉的支援を行うための制度ですので、労働災害かどうかは問われません。認定は、身体障害者福祉法施行規則別表第5に定められている基準や、厚生労働省が示す認定要領等に基づいて行われ、都道府県知事が認定します。対象となる障害は、視覚障害、聴覚障害、音声・言語機能障害、肢体不自由、心臓や腎臓などの内部障害など多岐にわたり、それぞれについて障害の程度が定められています。
両制度を比較すると、それぞれ、制度目的、認定基準、認定方法が異なっていることがお分かりいただけると思います。労災保険は、労働災害によって生じた損害を補償するための制度であって、身体障害者手帳は、障害のある人に福祉サービスを提供するための制度です。そもそもの制度の目的が異なっているので、同じ身体障害であっても評価の視点や認定基準等が異なっているのです。
例えば、ある人が手指の機能障害について身体障害者手帳の交付を受けたとしても、その障害が労災事故によるものではなければ、労災保険の対象とはなりません。また、労災事故による障害であったとしても、労災保険では労働能力への影響を重視して認定されるのに対し、身体障害者手帳では身体機能の障害そのものや日常生活への影響を中心に評価されるので、身体障害者手帳では一定の等級に該当するにもかかわらず、労災保険ではより軽い等級となる場合や、反対に身体障害者手帳の対象とはならないものの、労災保険では障害等級に該当すると判断される場合もありえます。また、制度が異なる以上、診断書の様式や必要な記載事項が異なる点にも注意が必要です。医療機関では、労災保険用、身体障害者手帳用、障害年金用など、それぞれ異なる様式の診断書を作成することになるので、どの制度の申請を予定しているのかを医師に正確に伝えなければ、必要な事項が記載されず、再作成が必要になることも少なくありません。
どちらの制度においても医学的所見が判断の基礎となるので、画像検査、神経学的検査、関節可動域の測定結果などは共通の資料として利用されることはあります。しかし、同じ資料が提出されたとしても、行政庁はそれぞれの法律に基づく独自の認定基準によって審査を行うので、提出資料が共通だからといって認定結果が同一になる訳ではありません。被災した労働者本人としては、労災保険だけでなく、障害年金や自治体の福祉施策など、利用可能な制度を幅広く検討することが重要ですが、実際の請求にあたっては、両制度の違いを十分に理解したうえで手続きを進めることが求められます。
このように、労災保険の障害等級と身体障害者手帳の等級は、いずれも身体障害を評価する制度であるという点では共通しますが、それぞれ目的も法的根拠も認定基準も異なっています。ですので、ご質問にあるように、両者が法律上紐づいていると考えることはできません。ただ、どちらの制度も障害のある人の生活を支えるという点では共通していて、それぞれが異なる役割を担いながら相互に補完し合うことで、障害のある人の生活全般を支えていると理解できます。労災保険は被災労働者の経済的損失を補償する制度で、身体障害者手帳制度は福祉サービスを通じて社会参加を支援する制度です。この制度の違いを正しく理解することは、適切な権利行使につながるだけでなく、企業の労務管理や被災労働者への支援を適切に行ううえでも重要です。どちらか一方の認定を受けたから、もう一方も当然に認められると考えるのではなく、それぞれが独立した制度であることを前提に、必要な手続を個別に進めていくことが大切です。
令和8年7月7日
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹