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2026/08/09
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労働時間等設定改善委員会 について





 昨今、長時間労働の削減、年次有給休暇の取得促進、フレックスタイム制の導入、勤務間インターバルの確保など、企業にとって働く時間、働かない時間をどのように設計するかは重要な課題となっています。ご存じのように、労働時間は、会社が一方的に決めることができるものではなく、労働基準法上、変形労働時間制や時間外・休日労働などについては、労働組合や労働者の過半数代表者との労使協定が必要とされています。こうした個別の労使協定とは別に、労使が継続的に労働時間、休日、休暇などについて話し合うための仕組みとして法律上位置づけられているのが、今回のテーマとなる労働時間等設定改善委員会です。おそらく、ほとんどの方は、こんな名前聞いたこともないのではないでしょうか。名称だけ聞くと行政機関の委員会のようにも思えますが、企業の事業場に設置される委員会で、使用者側と労働者側が参加して自社の働き方について調査・審議するための組織です。一定の要件を満たせば、その決議を通常の労使協定に代えることができるという法律上の効果も認められています。





 労働時間等設定改善委員会の根拠となる法律は、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法で、通常、労働時間等設定改善法と呼ばれています。そんな名前の法律なんか知らねえよという方がほとんどだと思います。この法律は、労働時間等の設定の改善に向けた事業主などの自主的な努力を促し、労働者が能力を有効に発揮できるようにすることで、労働者の健康で充実した生活の実現と国民経済の健全な発展を図ることを目的としています。ここでいう労働時間等というのは、労働時間だけでなく、休日、年次有給休暇その他の休暇まで含んでいて、労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季、深夜業の回数、終業から次の始業までの時間などを定めることも含んでいます。目指しているのは単純な残業時間の削減だけではなく、いつ働くのか、いつ休むのか、休暇をどのように取得するのか、勤務終了から翌日の勤務開始までどれだけ休息を確保するのかといった、働き方全体を改善することです。




 事業主に対しては、労働時間等の設定の改善を効果的に実施するために必要な体制を整備することが求められていて(法的義務ではなく努力義務)、具体的には、事業主を代表する者と労働者を代表する者を構成員とする委員会を設置し、労働時間等の設定の改善を図るための措置などについて調査・審議し、事業主に意見を述べる仕組みを設けることが想定されています。すべての会社がこの委員会を設置する必要があるわけではなく、重要なのは、労使が日常的、継続的に労働時間等について話し合い、その結果を会社の制度に反映できる体制を整えることです。単に、人事部と従業員代表が定期的に話しているというだけでは、労働時間等設定改善委員会とは評価されず、労働時間等設定改善委員会として特別な法律効果を受けるためには、事業場ごとに設置された委員会であることの他、以下の要件を満たす必要があります。



1.委員の半数について、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組 
 合、なければ労働者の過半数を代表する者の推薦に基づいて指名されていること

2.委員会の議事について議事録が作成され、保存されていること
 ます。

3.委員の任期、委員会の招集、定足数、議事その他委員会の運営に必要な事項について規程
 を定められていること


 

 労働時間等設定改善委員会を設置・運営する場合の最大のメリットは、一定の事項について、委員会の決議を労働基準法上の労使協定などに代えることができるというところです。この決議について法律は、単純な過半数ではなく、委員員の5分の4以上の多数による議決を要求しています。労働条件に大きな影響を与える制度について通常の労使協定に代わる効果を認める以上、労使双方を含む幅広い合意が必要だという考え方が背景にあります。対象となる事項は非常に幅広くて、例えば、1か月単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制、休憩の一斉付与の例外、時間外・休日労働に関するものなどが含まれます。その他、月60時間を超える時間外労働に対応する代替休暇、事業場外みなし労働時間制、専門業務型裁量労働制、年次有給休暇の時間単位取得、年次有給休暇の計画的付与なども対象となっています。



 例えば、フレックスタイム制について労使協定が必要となるケースで、要件を満たす労働時間等設定改善委員会が適法に決議すれば、その決議に労使協定と同様の効果を持たせることができます。あくまで労使協定などを委員会決議によって代替できるという効果に過ぎないので、労働基準法が定める時間外労働の上限規制など、それぞれの制度について適用される実体的な規制を免れるものではありません。手続面でも、時間外・休日労働に関する決議、いわゆる36協定に相当するものについては、労働基準監督署長への届出が必要という点は変わりません。





 この委員会については、衛生委員会との違いがよく分からないというご意見も多くいただきます。労働安全衛生法に基づく衛生委員会は、労働者の健康障害防止や健康保持増進などを調査・審議するための委員会であるのに対し、労働時間等設定改善委員会は、労働時間、休日、休暇などの設定改善を話し合うための委員会です。以前の法律では、一定の要件を満たした衛生委員会を労働時間等設定改善委員会とみなす仕組みが存在しましたが、2018年の働き方改革関連法による改正でこのみなし制度が廃止されたので、現在は、法律上の特例を利用したい場合には、衛生委員会とはまた別に、労働時間等設定改善法7条が定める要件に沿った委員会を設ける必要があります。





 労働時間等設定改善委員会を設置する本来の目的は、労使が継続的に働き方を検討することにあります。残業時間の部署別の偏りが生じていないか、年次有給休暇を取得できていない従業員がいないか、繁忙期と閑散期に合わせて勤務時間を柔軟にできないか、育児や介護を行う従業員が働き続けやすい勤務制度になっているか、終業時刻が遅い従業員について翌日の始業まで十分な休息時間を確保できているか、といった問題を労使で検討する場として活用することが期待されています。長時間労働の抑制、有給休暇の取得促進、勤務間インターバル、育児・介護との両立など、働き方に関する課題は企業ごとに異なります。労働時間制度は、就業規則や労使協定を一度作れば終わりというものではなく、実際の勤務状況を確認し、問題を把握し、労使で話し合い、必要に応じて制度を見直していくことが求められます。労働時間等設定改善委員会は、こうした個々の事情を踏まえながら、企業全体の働き方を労使で検討する場として利用することに制度本来の意義があります。


令和8年8月9日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹


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