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2026/06/22
賃金・労働時間

割増賃金の基礎となる賃金の計算方法について





 企業の人事労務担当者からよく受ける相談の一つが、残業代の計算基礎にどの手当を含めればよいのか分からないというものが挙げられます。実際のところ、割増賃金の未払いが発生する原因として、この基礎となる賃金の計算誤りにあることが多い印象があります。残業代の計算では、単純に基本給だけを基準にすればよいわけではありません。各種手当を含める必要がある場合も多く、誤った運用を続けると、後日まとまった未払残業代を請求されるリスクがあります。





 労働基準法37条は、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働、深夜労働について、通常の賃金に一定率を上乗せした割増賃金を支払うことを義務付けています。割増賃金を計算する際には、割増賃金の基礎となる「1時間当たりの賃金額」をまず算出しなければなりません。例えば、月給30万円の従業員が1時間残業した場合、その30万円のどの部分を基礎として換算するのかによって、この1時間当たりの賃金額は変わります。この点、労働基準法37条5項および労働基準法施行規則21条は、一定の賃金のみを例外的に除外すると定めていて、除外対象に当たらない賃金はすべて計算の基礎に含めることが必要としています。ですので、①基本給、②役職手当、③資格手当、④職務手当、⑤営業手当、⑥精勤手当、⑦皆勤手当などは原則として割増賃金の計算に入れるべきということになります。会社によっては、残業代は基本給のみを基準に計算すればよい、役職手当などは除外できるなどと考えているケースもありますが、そのようなルールは存在しません。法律上、除外できる賃金は限定列挙されているため、除外対象以外はすべて含めるという理解がまず基本となります。




 労働基準法37条5項および労働基準法施行規則21条によると、割増賃金の算定基礎から除外できる賃金は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、そして1か月を超える期間ごとに支払われる賃金のみに限定されています。ここで重要なのは、名称ではなく実態で判断するという点です。例えば「住宅手当」という名称であっても、全社員に一律2万円を支給している場合には、住宅費との関連性がなく、実質的には給与の一部と評価される可能性があります。同様に、「家族手当」と呼ばれていても、扶養家族の有無にかかわらず全員へ同額支給している場合は除外対象とは認められません。ただし、固定残業代として有効に設計されている部分については、割増賃金の基礎に再度算入すると二重計算になるため、通常は基礎賃金から除外して考えます。





 ここで、実際に、以下のようなケースでの残業代を計算してみましょう。


基本給25万円、役職手当3万円、資格手当2万円、通勤手当1万円とします。この場合、通勤手当(通勤距離等に応じて支払われている場合)は除外できますが、役職手当と資格手当は算入しなければなりません。

  したがって基礎賃金は、25万円+3万円+2万円の合計30万円となります。

  仮に月平均所定労働時間が160時間とすると、

  30万円÷160時間=1,875円


が1時間当たりの基礎賃金になります。法定時間外労働であれば25%以上の割増率が必要ですので、残業単価は、1,875円×1.25=2,343円となります。この基礎賃金を誤って基本給の25万円だけで計算してしまうと、残業代不足が発生することになるので注意が必要です。

 


 今のところ、未払残業代請求の時効は3年間であり、将来的には5年間への延長も予定されています。計算方法の誤りは大きな金額の支払義務につながりかねないため、今のうちに、就業規則や賃金規程を見直し、各手当の性質を確認しておく必要があります。繰り返しになりますが、割増賃金の計算では、基本給だけを基準にするという考え方は誤りです。労働基準法37条第5項および労働基準法施行規則21条は、算定基礎から除外できる賃金を限定的に定めており、それ以外の賃金は原則としてすべて算入すべきなのです。また、本来であれば除外対象とされている家族手当、住宅手当、通勤手当についても、単に名称だけで判断されるのではなく、その支給実態によって結論が変わりうることにも注意しましょう。残業代トラブルを防ぐためには、賃金規程の整備と定期的なチェックが欠かせません。人事担当者や経営者は、一度自社の手当体系を見直してみることをお勧めします。

令和8年6月22日


リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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