高市自民党新総裁の「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。」という発言を受け、今後、高市氏が内閣総理大臣に就任すると、内閣に関わる公務員の働き方にも影響が及ぶのではないか(ワークライフバランスを無視したハードワークを要求されるのではないか)と心配する声が聞こえてきます。
いわゆるブラック企業とは、「従業員に対し、劣悪な環境での労働を強いて改善しない体質を持ち、労働法に違犯するような働き方を強制する企業」のことを言います。個人的には、公務員についても、以下のとおり、長時間労働から保護する法制度があり、行政機関が、公務員の労働環境を規制する法律に違反するようなことを露骨に行うことは通常考えにくいことから、行政機関が突然ブラック企業化して職員に対し違法な長時間労働を強いるようになるリスクはないだろうとは思います。
ただし、大規模災害への対処、重要な政策に関する法律の立案、他国又は国際機関との重要な交渉その他の重要な業務であって特に緊急に処理することを要するものと各省各庁の長が認める業務については、いわゆる特例業務として、法律で規制されている超過勤務の上限時間を超えて勤務を命じることができるとされていることから、担当する職の内容によっては、超過勤務時間が長くなる可能性は否定できません。今回は、世間にはあまり知られていない公務員の残業規制についてお話させていただきます。
1.公務員にも「残業規制」が必要な理由
2019年の働き方改革関連法の施行により、民間企業では労働基準法改正による「時間外労働の上限規制」(月45時間・年360時間など)が導入されました。
これに合わせて、国家公務員や地方公務員にも「同様の上限管理」を導入すべきだとされ、制度が見直されてきました。ただし、公務の性質上「緊急対応・国会対応・災害対応」など、民間よりも突発性の高い業務があるため、特例規定も設けられています。
2.法的根拠
(1)国家公務員の場合
(2)地方公務員の場合
3.国家公務員の残業(超過勤務)命令の上限
区分 | 月の上限 | 年の上限 | 備考 |
原則 | 45時間 | 360時間 | 通常業務 |
繁忙期等の特例 | 100時間未満 | 720時間以下 | 年6か月まで |
特例業務(後述) | 上限を超えて可 | ― | 災害・国会・重要政策対応など |
ただし、超過勤務命令を出せるのは「所属長等が業務上やむを得ないと判断した場合」に限られています。また、命令の根拠や理由、時間数は記録・保存する必要があります(人事院規則15-14第21条等)。
出典:人事院「上限を超えて超過勤務を命ぜられた職員の割合等について(令和5年度)」
4.特例が認められるケース
法律上、「上限を超えて超過勤務を命じ得る特例」が定められていて、以下のような業務が典型例とされています。
これらは「特例業務」として、上限を一時的に超えて命令可能です。
ただし、その場合には:
ことが義務づけられています(人事院「超過勤務命令の上限に関する指針」第4項)。
5. 健康確保措置
長時間勤務が発生した職員については、以下のような健康管理措置を講じる義務があります。これにより、過労死・過労自殺の未然防止を図っています。
6.現状について
人事院は、今年6月、令和5年度における上限を超えて超過勤務を命ぜられた職員の割合等についての調査結果を公表しています。
これによると、以下のような傾向が指摘されています。
・「大規模災害への対処」により上限を超えた職員割合は、他律部署と自律部署のいずれも増加している。
・「新型コロナウイルス感染症対策関連業務」により上限を超えた職員割合は、他律部署と自律部署のいずれも大幅に減少している。
・上限を超えた職員割合が最も大きいものは、他律部署では「国会対応業務」、自律部署では「大規模災害への対処」であった。
上限を超えた職員割合が最も大きいものが国会対応業務であることからすると、内閣総理大臣が馬車馬のように働くことで国会等での議論が活発化→国家公務員の国会対応業務が増え超過勤務時間が増加という関係がある以上、内閣総理大臣の働き方が国家公務員の働き方に与える影響は決して小さくはないのかもしれませんね。
上限超えの主な要因別の職員割合(令和5年度)
出典:人事院「上限を超えて超過勤務を命ぜられた職員の割合等について(令和5年度)」