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2025/10/30
その他(労務関連)

働きたいだけ働く権利はあるのか


昨今、自民党が掲げる「働きたい改革」についての賛否の声が広がっていますが、前提として、労働者が使用者に対し、働かせるよう請求する権利というものが認められているのでしょうか。


かかる権利のことを、 労働法上、「就労請求権」と呼んだりします。





日本国憲法第27条第1項には、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」とあります。ここでいう「勤労の権利」とは、「就労の機会を国家に求める権利」であって、私人(会社など)に対して「働かせるよう請求する権利」ではないと解釈されているので、「憲法上の勤労の権利」=就労請求権とは解されていません。




一方、労働契約法は、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」(6条)とされていて、「労働者が使用者に使用されて労働する義務」と「使用者の賃金支払義務」が基本とされています。
権利という側面からみると、「労働者の賃金請求権」と 「使用者の労務給付請求権」が基本ということになり、 「労働者の就労請求権」というのは、法文上は認められていません。





通説・判例は、労働義務は義務であって権利ではない(使用者は、賃金を支払う限り、提供された労働力を使用するか否かは自由であって、労働受領義務はない)という考え方に基づき、特約ある場合や特別の技能者である場合を除いては就労請求権を認めていません(菅野和夫・山川隆一「労働法」から引用)
一方で、就労することは労働者にとって生活の手段以上の重要な意義を持つことを理由に、信義則(労働契約法3条4項)や配慮義務などを根拠に就労請求権を認めるべきとする有力な見解もあります。



労働者には、労働契約の合意内容の枠内で、労働の内容・遂行方法・場所などに関する使用者の指揮に従った労働を誠実に遂行すべき義務が課せられていることから、個人的には、労働者からの就労請求権というものは原則として認めるべきではないと考えています。かかる権利を認めると、使用者側に予測できない残業代支払い義務が生じたり、また、一部の従業員のみ残業代が増えることで職場に不公平感が生じることにもなりかねず、組織体として規律・秩序の維持の観点から好ましくないと考えます。



組織の中で一従業員として働く以上、会社の都合、周囲とのバランスを無視することはできず、収入を増やしたいから、気力・体力ともに有り余っているからという理由だけで勝手に労働時間を増やすことなど、認められません。労働時間規制を考慮せず自分の裁量で働けるだけ働きたいという人は、個人事業主(フリーランスを含む)になるか、起業されることをお勧めします。




就労請求権が問題になる具体的なケース

事例就労請求権の論点
配転命令により就労場所がなくなった元の職場での就労を請求できるか?
懲戒処分中の自宅待機待機中でも就労を請求できるか?
休職命令心身の状態が回復している場合、復職請求できるか?
シフトを減らされたパート労働者所定労働時間を保証して就労させる義務があるか?




これらの場合、就労請求権が認められるかどうかは、労働契約の内容・業務の必要性・使用者側の事情などにより判断されます。




例外的に認められる場合




もっとも、判例は「特段の事情」がある場合には就労請求権を認めています。
たとえば次のようなケースです。


これらの場合、労働者は「働かせる義務」を会社に求めることができ、就労拒否が違法と判断される可能性があります。




人事担当者が注意すべき点




企業が人事措置として一時的に就労を制限する場合(自宅待機、配置転換、出勤停止など)、
「業務上の必要性」、「措置の相当性」、「根拠」等を明確にしておくことが重要です。




不当な理由で就労を妨げたと判断されれば、





といった法的責任を負う可能性があります。




実務上、「自宅待機命令」と呼ばれるものは、①文字通り自宅で待機するという業務を命じるものと、②出社しないことを命じるものの2つの類型に分けられます。前者は、自宅で待機すること自体が労働者のなすべき労務提供であることから、自宅待機中の賃金は全額支給する必要があり、後者の場合、使用者の帰責事由の有無により、賃金の支払い義務を負うか変わってくることに注意が必要です。





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