今年の6月1日から、従来の懲役、禁固という刑の種類に変わり、拘禁刑というものが導入されていることはご存じでしょうか。
「被告人を懲役2年に処する。」
裁判長の口からこのような判決が言い渡されることはなくなります。
拘禁刑が言い渡されるのは、令和7年6月1日以降に犯された罪についての判決からになるので、実際に拘禁刑が言い渡されるのはもう少し先になるかもしれません。
拘禁刑が言い渡された受刑者に対しては、刑事施設の長は、作業を行わせることができます。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律93条
刑事施設の長は、受刑者に対し、その改善更生及び円滑な社会復帰を図るため必要と認められる場合には、作業を行わせるものとする。ただし、作業を行わせることが相当でないと認めるときは、この限りでない。
作業の種類は、次のとおりとする。
(1) 生産作業(物品を製作する作業及び労務を提供する作業)
(2) 社会貢献作業(労務を提供する作業であって、社会に貢献していることを受刑者が実
感することにより、その改善更生及び円滑な社会復帰に資すると刑事施設の長が特に認
めるものをいう。)
(3) 自営作業(刑事施設における炊事、清掃、介助、理髪、指導補助その他の経理作業及
び矯正施設の建物の修繕その他の営繕作業をいう。)
(4) 職業訓練
おそらく、この中で最もイメージしやすいのは、⑴の生産作業だと思われますが、この作業は大きく次の7種類に分けられます。
(1) 木工、(2) 印刷、(3) 洋裁、(4) 金属、(5) 革工、(6) 農業、(7) その他の生産作業
これらの作業を行う時間は、原則、土日を除く平日について、1日につき8時間を超えない範囲内で定められます(例外的に12時間まで延長可)。
1日につき8時間を超えないというと、刑事施設内の作業にも労働基準法が適用されるのかなと思われるかもしれませんが、作業というのは労働ではなくあくまでも矯正処遇(改善更生と社会復帰を目的として行われる処遇のこと)の一環として行われるものなので、労働基準法を含む労働法の適用は受けません。
ただし、刑事施設の長は、作業を行う受刑者の安全及び衛生を確保するため必要な措置を講じなければならないとされていて、労働安全衛生法その他の法令に定める労働者の安全及び衛生を確保するため事業者が講ずべき措置及び労働者が守らなければならない事項に準じて、法務大臣が受刑者等の作業の安全及び衛生の確保に関する訓令を定めています。
刑事施設内の作業には労働法の適用がないので、刑事施設と被収容者との間で労働契約が締結されているとは評価されず、刑事施設は、作業を行った被収容者に対し賃金を支払う義務はありません。
ただ、作業を実施した受刑者には、出所後の生活資金の扶助として、作業報奨金が支給されていて、厚生労働省によると、令和4年度の作業報奨金の1人1月当たりの平均支給計算額は、約4,537円となっています。
年間では、54,444円。決して大きな金額ではないですが、施設長の許可を得られれば、所内生活で用いる物品の購入や家族の生計の援助等に使用することも認められていることから、受刑者にとっては貴重な財源です。
作業報奨金については、➀国民の負担で支払うことは納得できない、②勤労・更生へのモチベーションを上げるため、もう少し基準をあげてもよいのではないか、③作業を労働に準じるものと考え、最低賃金は保障すべきではないか、④被害者保護の観点から、基準を上げた上で強制的に被害弁償に充てるようにすべきではないか等々、さまざまな意見があるところです。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条
刑事施設の長は、作業を行った受刑者に対しては、釈放の際(その者が受刑者以外の被収容者となったときは、その際)に、その時における報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を支給するものとする。
2 刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、毎月、その月の前月において受刑者が行った作業に対応する金額として、法務大臣が定める基準に従い、その作業の成績その他就業に関する事項を考慮して算出した金額を報奨金計算額に加算するものとする。ただし、釈放の日の属する月における作業に係る加算は、釈放の時に行う。
3 前項の基準は、作業の種類及び内容、作業に要する知識及び技能の程度等を考慮して定める。
4 刑事施設の長は、受刑者がその釈放前に作業報奨金の支給を受けたい旨の申出をした場合において、その使用の目的が、自弁物品等の購入、親族の生計の援助、被害者に対する損害賠償への充当等相当なものであると認めるときは、第一項の規定にかかわらず、法務省令で定めるところにより、その支給の時における報奨金計算額に相当する金額の範囲内で、申出の額の全部又は一部の金額を支給することができる。この場合には、その支給額に相当する金額を報奨金計算額から減額する。