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社員食堂で提供された食事により食中毒を発症した場合、それが労災に当たるかどうかは一見すると単純に思えるかもしれません。しかし、労災認定は「会社内で起きたか」という事実だけでは足りず、法的には異なる二つの要件を満たす必要があります。その中心となるのが「業務遂行性」と「業務起因性」です。
まず業務遂行性とは、労働者が事業主の支配・管理下にある状態で当該出来事が発生したかどうかを問う概念です。社員食堂の利用場面において重要なのは、当該食事行為がどこまで会社の支配・管理のもとに置かれているかという点です。一般に休憩時間中の食事は私的行為と評価される余地がありますが、社員食堂については事情が異なります。会社が施設を設置し、従業員に対して継続的に食事を提供している場合、その利用は単なる私的行為にとどまらず、企業活動の一環として位置付けられることがあります。
業務遂行性の判断は形式的ではなく、実態に即して行われます。たとえば、社員食堂の利用が事実上強制されている場合や、工場・事業所の立地上、外部での食事が現実的でない場合には、労働者は会社の支配・管理下で食事をとっていると評価されやすくなります。これに対し、単に事業場のある建物内に事業主とは経営主体の異なる食堂が設置されているにすぎず、社員も自由に外食や持参弁当を選択できる状況であれば、かかる食堂内での食事行為は会社の支配・管理を離れた私的領域に属すると判断される可能性が高くなります。このように、業務遂行性は「場所」や「時間」だけで決まるものではなく、「支配・管理関係の有無」という観点から具体的に判断される点が重要です。
これに対し、業務起因性とは、当該疾病が業務に内在する危険によって発生したといえるか、すなわち業務と結果との間に相当因果関係があるかを問うものです。食中毒の場面では、この業務起因性の判断が特に重要かつ難解です。なぜなら、食事は業務とは無関係にも行われる日常的行為であり、原因食品の特定が困難な場合も多いためです。そのため実務上は、医学的・疫学的な裏付けをもって原因を特定できるかが重視されます。
たとえば、同一の社員食堂で同一のメニューを摂取した複数の従業員に同様の症状が発生し、さらに保健所の調査によって原因食品が特定された場合には、当該食事に内在する危険が現実化したものと評価されやすくなります。この場合、業務に付随して提供された食事が原因である以上、業務起因性が肯定される可能性が高いといえます。これに対し、発症者が単独であり、他の従業員に同様の症状が見られない場合や、食堂以外の飲食物の影響が否定できない場合には、業務との因果関係は不明確となり、業務起因性は否定されやすくなります。したがって、業務起因性は単なる可能性では足りず、「合理的に説明できる程度の因果関係」が求められる点に注意が必要です。
社員食堂における食中毒が労災に該当するかを判断するにあたっては、まず当該食事行為が会社の支配・管理下にあったかという業務遂行性を検討し、次にその食事が原因で疾病が発生したといえるかという業務起因性を検討する必要があります。両者は相互に関連しつつも、異なる観点から判断される独立の要件です。労働基準監督署による認定実務でも、社員食堂の運営形態や利用実態に関する資料と、医師の診断書や保健所の調査結果といった資料とが、それぞれ別の観点から評価されます。この点を混同すると、主張や証拠の整理を誤るおそれがあります。「社員食堂で起きた」という事実のみで労災として直ちに認められるわけではなく、支配管理関係と因果関係の双方を個別具体的に検討することが不可欠です。