労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立します(労働契約法6条)。
労働契約を締結しているにもかかわらず、労働者が使用者に対して労務を提供できない場合は、労務を提供するという労働者の債務が不履行となるので、使用者は、法定の要件を満たせば、労働者に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求や解雇をすることが可能となります(私傷病を理由とする場合は現実的には容易ではない)。
しかし、病気を理由とするなど、労働者が労務を提供できない理由によっては、労働者に損害賠償債務を負担させたり、解雇されるリスクを負わせることが相当でない場合があります。
また、使用者は、労働契約に伴う付随義務として、職場環境配慮義務、安全(健康)配慮義務を負っており、かかる義務に基づき、使用者が特定の労働者に対し休職を命ずべき場合もあるでしょう。
そのような場合に備えて、使用者は休職制度を設け、従業員に対し、一定期間労務への従事を免除することで、就労不能を理由とする解雇を猶予しています。
公務員については、国家公務員法や地方公務員法で休職制度が設けられていますが、民間企業については法律の規定はなく、就業規則や労働協約に規定がある場合に認められる任意の制度ということになります。
現在、多くの民間企業はこの休職制度を設けていますが、他の規制の潜脱になるような場合を除き、この制度についての特段の法規制はなく、使用者が任意に制度内容を設計しています。
ちなみに、厚生労働省のモデル就業規則においては、以下のような規定となっています。
(休職)
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤が〇か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務で
きないとき
〇年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき
必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、
元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがあ
る。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場
合は、休職期間の満了をもって退職とする。
精神疾患の場合は断続的な欠勤となるケースが多いので、このモデル就業規則のような規定に加え、「業務外の傷病による欠勤が3か月間で計30回を超え、その傷病が治癒しないとき」と規定が定められていることも多いです。
休職期間についても特段の法規制はないので、短い期間だと3ヶ月間、長い場合で3年間など、使用者の判断で期間を設定することは可能です。使用者側からすると、休職期間中の社会保険料負担などを考えると短い方がよいということになりますし、反対に労働者側からすると、休んでも退職になることなく会社に在籍できるというメリット(給料は発生しませんが、傷病手当金は受給できます)から長い方がよいということになるかもしれません。
現実的には、傷病手当金をもらえるのが1年6ヶ月の期間なので、休職期間は長くても1年6ヶ月くらいまでが相当かなと思います。もちろん、それよりも短い期間を設定することは使用者の自由なので、3ヶ月や6ヶ月という期間設定も可能です。ただし、30日未満となると解雇予告制度の潜脱と評価される可能性があるので、どれだけ短くても30日以上であることが望ましいです。
この点、休業期間が3ヶ月程度では、一定の重い疾患の場合など、休業の原因となった病気が治癒する見込みがあるのか否かの判断がつかないのではないかと思われる方もおられるかもしれません。そのような場合は、判断できるまで、休業期間を会社の判断で延長することを検討すればよいでしょう。
精神疾患による休職の場合、復職しても短期間で再発して再び休職するケースも少なくないことから、この休職期間の計算方法に関しては、復職後、短期間で再度休職した場合に休職期間を通算して計算する旨の規定があったほうがよいと思います。