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2025/12/11
その他(労務関連)

任期付き公務員と会計年度任用職員の違い


近年、自治体や国の行政機関において、「任期付き公務員」や「会計年度任用職員」といった名称の職員を目にする機会が増えています。どちらも「一定期間だけ任用される公務員」であり、終身雇用を前提とする従来の公務員像とは異なる存在です。


しかし、実際にはこの二つの制度は目的も法的根拠も大きく異なります。
「任期付き公務員」は、専門人材を一定期間だけ登用するための制度であり、常勤の正規公務員に準じる身分を持ちます。一方、「会計年度任用職員」は、自治体の日常業務を補助するための非常勤職員制度であり、パートタイム職員に近い位置づけです。




1.背景:行政の多様化と人材確保の必要性




かつての公務員制度は「終身雇用・年功序列・定年制」を前提に設計されていました。しかし、少子高齢化、IT化、災害対応など、行政ニーズが急速に変化する中で、専門知識を持つ民間人材の登用や、業務量に応じた柔軟な雇用形態の導入が求められるようになりました。また、従前、地方公共団体における非正規公務員の採用方法や法適用関係は非常に恣意的なものとなっていて、通常の事務職員を「特別職非常勤職員」として任用したりする等、制度趣旨に沿わない運用も問題となっていました。

こうした流れの中で、国・地方ともに非正規的な任用制度が整備され、


  • 専門人材を期間限定で登用するための「任期付き職員制度
  • 事務補助や住民対応を担う「会計年度任用職員制度




が法制度として確立しました。これにより、行政組織はより柔軟に人材を確保できるようになった一方で、雇用の不安定化や処遇格差といった課題も指摘されています。





.任期付き公務員とは

(1)法的根拠と制度概要


任期付き公務員は、地方公共団体の一般職の任期付き職員の採用に関する法律、地方公共団体の一般職の任期付研究員の採用等に関する法律等に基づく制度です。


これらの法律により、行政機関は「専門的な知識や経験を有する者を、任期を定めて常勤職員として任用すること」ができます。任期の上限は原則5年以内であり、特に必要がある場合は再任や任期延長も可能とされています。



(2)任用目的

任期付き公務員制度は、たとえば次のような目的で活用されます。


  • 新しい行政分野(例:AI・デジタル化・環境政策など)で専門人材を登用する
  • 国際的なプロジェクトや特定の政策課題に対応する
  • 民間経験者を行政に呼び込み、知見を活用する




そのため、一般の公務員採用試験とは異なり、職務経験や専門資格を重視する選考が行われます。


(3)待遇と身分



任期付き公務員は「常勤職員」であり、給与や手当、休暇、社会保険などの待遇は一般の正規職員とほぼ同等です。勤務時間はフルタイムであり、職務命令系統も通常の職員と変わりません。ただし、任期が満了すると自動的に退職となり、再任がなければ雇用は終了します。この「任期満了退職」が労働契約上の自然な終了とされるため、民間の有期契約社員のように「無期転換」の制度はありません。




3.会計年度任用職員とは




(1)法的根拠と制度の目的

「会計年度任用職員」は、平成29年の地方公務員法の改正の際、一般職非常勤職員である会計年度任用職員に関する規定が設けられ、その採用方法や任期等が明確化されました(地方公務員法第22条の2)



(会計年度任用職員の採用の方法等)

地方公務員法第二十二条の二 次に掲げる職員(以下この条において「会計年度任用職員」という。)の採用は、第十七条の二第一項及び第二項の規定にかかわらず、競争試験又は選考によるものとする。

一 一会計年度を超えない範囲内で置かれる非常勤の職(第二十二条の四第一項に規定する短時間勤務の職を除く。)(次号において「会計年度任用の職」という。)を占める職員であつて、その一週間当たりの通常の勤務時間が常時勤務を要する職を占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間に比し短い時間であるもの

二 会計年度任用の職を占める職員であつて、その一週間当たりの通常の勤務時間が常時勤務を要する職を占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間と同一の時間であるもの

2 会計年度任用職員の任期は、その採用の日から同日の属する会計年度の末日までの期間の範囲内で任命権者が定める。

3 任命権者は、前二項の規定により会計年度任用職員を採用する場合には、当該会計年度任用職員にその任期を明示しなければならない。

4 任命権者は、会計年度任用職員の任期が第二項に規定する期間に満たない場合には、当該会計年度任用職員の勤務実績を考慮した上で、当該期間の範囲内において、その任期を更新することができる。

5 第三項の規定は、前項の規定により任期を更新する場合について準用する。

6 任命権者は、会計年度任用職員の採用又は任期の更新に当たつては、職務の遂行に必要かつ十分な任期を定めるものとし、必要以上に短い任期を定めることにより、採用又は任期の更新を反復して行うことのないよう配慮しなければならない。

7 会計年度任用職員に対する前条の規定の適用については、同条中「六月」とあるのは、「一月」とする。




従来、自治体では「臨時職員」「嘱託職員」「非常勤講師」など多様な非正規職員が存在し、任用根拠や処遇が不統一でした。この状況を整理し、法的安定性と公平な処遇を確保するために創設されたのが「会計年度任用職員制度」です。


(2)任用期間と更新



任用期間は会計年度(4月1日から翌年3月31日まで)の範囲内であり、最大でも1年です。翌年度に更新される場合でも、新たに任用手続を行う必要があります。このため、制度上は毎年雇い直される形になります。




(3)勤務形態と待遇



勤務時間は「フルタイム」と「パートタイム」に分かれます。
給与や期末手当(ボーナス)は条例で定められ、社会保険も一定の勤務条件を満たせば加入対象となります。
ただし、昇給や退職手当、昇任などは限定的であり、常勤職員と比べて処遇格差があります。
また、国家公務員には「会計年度任用職員」に対応する制度は存在せず、地方自治体固有の制度です。





.実務上の課題と今後の展望





会計年度任用職員制度は、導入から数年が経過しましたが、現場では次のような課題が指摘されています。


  ・契約更新のたびに不安を抱える職員が多い

  ・長年同じ職務を担っていても、昇給・昇格の仕組みが限定的


  ・雇止めをめぐるトラブル(実質的な常勤化の問題)


  ・業務の中核を担っているにもかかわらず、責任と報酬のバランスが取れていない




一方、任期付き公務員制度についても、「優秀な民間人材が任期後に行政から離れてしまう」という課題があり、キャリアパスの確立が求められています。今後は、専門性を持つ任期付き職員と、地域行政を支える会計年度任用職員の役割を明確にし、処遇や研修制度を整備することが重要となるでしょう。行政機関の人事担当者は、この違いを理解した上で適正な任用・契約更新を行う必要があります。また、働く側も自らの「法的身分」と「任用根拠」を確認し、雇用の安定性や処遇条件を正しく把握することが大切です。

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