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2026/10/30
賃金・労働時間

事業場外みなし労働時間制、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制についての規定が、時間計算についての規定である労働基準法38条の枝番になっているのはなにか理由があるの?



 労働基準法には、労働時間に関するさまざまな規定があって、有名なのは、1日8時間、1週40時間という法定労働時間を定めた32条ですが、実際の労働時間をどのように計算するかについては、38条にも重要な規定が置かれています。この38条には枝番があって、38条の2には事業場外みなし労働時間制、38条の3には専門業務型裁量労働制、38条の4には企画業務型裁量労働制がそれぞれ定められています。1987年の労働基準法改正では、労働時間の短縮を進める一方で、働き方の多様化に対応するため、事業場外みなし労働時間制や専門業務型裁量労働制の仕組みが整備され、その後、1998年の改正によって企画業務型裁量労働制が創設され、現在の38条の4につながっています。これらの制度はなぜ38条の枝番として規定されたのか、この条文の配置を考えることで労働時間規制の仕組みが少しは見えてくるかもしれません。




 32条は、使用者が労働者を働かせることのできる時間について、原則として1日8時間、1週40時間という上限を定めた規定であるのに対し、38条は、労働時間をどのように計算するかを定めた規定になります。38条1項は、事業場が異なる場合でも労働時間を通算するとしていて、一人の労働者が複数の事業場で働いた場合に、それぞれの労働時間を別々に扱うのではなくて、合算して法定労働時間を超えているかを判断しなさいとされていて、同じ会社の異なる事業場で働く場合だけでなく、異なる会社で働く場合にも適用されます。38条2項は、坑内労働について、坑口に入った時刻から出た時刻までを原則として労働時間とみなすことを定めている規定で、坑内での作業時間を個別に把握することの難しさなどを踏まえた、特別な時間計算の方法についての規定です。



 38条は、労働時間の長さを制限するというよりも、法律上、何時間働いたものとして取り扱うかを定めていて、その延長線上に、38条の2以下のみなし労働時間制についての規定が置かれています。そのうち、事業場外みなし労働時間制は、営業などで事業場の外で働き、労働時間を算定し難い場合に、原則として所定労働時間働いたものとみなす制度です。専門業務型裁量労働制は、研究開発や一定の専門的業務など、業務の性質上、仕事の進め方や時間配分を労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、労使協定で定めた時間働いたものとみなす制度で、企画業務型裁量労働制も、労働者の裁量を重視する点では共通していますが、事業運営に関する企画、立案、調査、分析の業務を対象とし、労使委員会の決議など、専門業務型とは異なる要件が設けられています。





 これら三つの制度は、適用要件や制度の趣旨が異なりますが、実際に働いた時間をそのまま労働時間として算定するのではなく、一定の時間働いたものとみなすという点で共通しています。重要なのは、これらが法定労働時間そのものを変更する制度ではないということで、例えば、専門業務型裁量労働制により1日9時間働いたものとみなされる場合でも、1日8時間という法定労働時間の原則がなくなるわけではありません。みなし労働時間が8時間を超えている以上、原則として36協定による時間外労働の手続や割増賃金の支払いが必要になります。32条は、何時間まで働かせることができるかを定めたもの、38条の2以下は、何時間働いたものとして計算するかを定めたもの、この違いを考えると、みなし労働時間制が32条ではなく、38条の枝番として規定されていることにも合理性があります。





 枝番に規定されたこれらの制度は、38条1項の労働時間の通算規定と無関係ではなく、例えば、A社で専門業務型裁量労働制が適用され、1日8時間働いたものとみなされる従業員が、B社でも雇用され、同じ日に2時間働いた場合、原則として、A社のみなし労働時間8時間とB社の労働時間2時間を通算することになります。この場合、実際にA社で何時間働いたかではなく、法律上のみなし労働時間を用いて計算しますが、この点、労働基準法41条2号の管理監督者とは扱いが異なります。管理監督者は、労働時間、休憩、休日に関する規制の適用が除外されているので、管理監督者として働いた時間は、原則として他の勤務先の労働時間と通算しませんが、裁量労働制の場合、労働時間規制の適用を除外するのではなく労働時間を一定の時間とみなす制度にすぎないので、他の勤務先との通算が問題になります。38条1項と38条の2以下の規定はそれぞれ役割は異なりますが、どの規定も、労働時間をどのように計算するかという問題を扱っているという点では共通しています。


令和8年10月30日

弁護士 石上秀樹

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