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2026/08/14
賃金・労働時間

フレックスタイム制と変形労働時間制の違いを教えてほしい





 働き方の多様化が言われだして久しいですが、今でも、フレックスタイム制と変形労働時間制の違いが実はよく分かっていないんだという声を聞くことがあります。どちらも、1日8時間・1週40時間という働き方を柔軟にする制度であるため、混同されやすい制度ではありますが、両者は制度の目的も仕組みも異なります。一言で違いを説明するなら、フレックスタイム制は労働者が始業・終業時刻を決める制度であるのに対し、変形労働時間制は会社が業務の繁閑に合わせて労働時間をあらかじめ配分する制度ということになります。





 労働基準法は、使用者は原則として労働者に、1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めています。これが、いわゆる法定労働時間と言われるもので、毎日の業務量が一定であれば、この法定労働時間に合わせて、所定労働時間も同じく1日8時間を超えない時間で設定しても問題はありません。ただ、すべての会社で毎日の業務量が一定とは限りませんし、例えば、小売業や宿泊業では曜日や季節によって忙しさが大きく変わり、企画職やITエンジニアなどでは、必ずしも全員が同じ時刻に出社する必要がない場合もあると思います。そのような需要に応えるため、労働基準法は、一定の要件を満たした場合に、通常とは異なる方法で労働時間を管理する仕組みを認めています。その代表例がフレックスタイム制と変形労働時間制と呼ばれるものです。







 フレックスタイム制では、3か月以内の一定期間を清算期間として定め、その期間全体で労働すべき総労働時間を設定し、そのうえで、各日の始業時刻と終業時刻を労働者の決定に委ねます。会社は、必ず勤務しなければならない時間帯であるコアタイムや、始業・終業時刻を選択できるフレキシブルタイムを設定することもでき、例えば、午前中に家庭の用事がある日は10時に出社し、別の日には7時30分から仕事を始めて早めに退社するといった働き方も可能になります。重要なのは、単に勤務時間が日によって違うことがフレックスタイム制なのではなく、始業・終業時刻を労働者自身が決められることが制度の根幹だという点です。導入に当たっては、就業規則その他これに準ずるものに、始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めるとともに、労使協定を締結しなければなりません。労使協定では、対象となる労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間などを定めます。






 これに対し、変形労働時間制は、業務の繁閑に応じて、会社が日や週ごとの労働時間をあらかじめ配分する制度です。代表的なものとして、労働基準法32条の2に基づく1か月単位の変形労働時間制と、32条の4に基づく1年単位の変形労働時間制があります。例えば、月末に業務が集中するような会社では、月初は1日の所定労働時間を6時間、月末は10時間と設定することが可能となります。通常の労働時間制であれば、1日10時間働いた場合、原則として8時間を超えた2時間は法定時間外労働になりますが、1か月単位の変形労働時間制を適法に導入し、あらかじめその日を10時間勤務の日として特定していれば、その2時間分すべてが直ちに時間外労働にはなりません。変形労働時間制は、忙しい日に長く働いてもらう代わりに、業務量の少ない日は短くするなど、一定期間を平均して法定労働時間の範囲に収める仕組みです。ただし、今週は忙しくなったから、明日から10時間勤務にしようなどと会社が自由に所定労働時間を変更できるような制度ではないので、対象期間における各日・各週の労働時間をあらかじめ特定しておくことが必要となります。






 このように、フレックスタイム制は、会社が清算期間における総労働時間などの枠組みを設定したうえで、日々の始業・終業時刻については労働者に選択の余地を与えるのに対し、変形労働時間制は、会社が業務量を予測し、この日は10時間、この日は6時間というように各日の労働時間をあらかじめ配置します。ですので、育児や介護との両立、通勤ラッシュの回避などを目的として、今日は8時に仕事を始めよう、明日は10時からにしようと従業員本人に選択させたいのであれば、フレックスタイム制が適しているでしょうし、ホテルや小売業、製造業など、土曜日は忙しいので9時間勤務にする代わりに、比較的暇な月曜日は7時間勤務にしたいと会社側が勤務時間を配置したいのであれば、変形労働時間制を検討することになります。両制度とも柔軟な労働時間制度という点は同じでも、柔軟性を与える相手が異なることがポイントです。





 フレックスタイム制や変形労働時間制を導入すると、1日8時間を超えて働いても残業にならないと誤解されている方もいらっしゃいますが、正確ではありません。フレックスタイム制では、清算期間を基準として法定時間外労働を判定するのが基本です。特に清算期間が1か月を超える場合には、清算期間全体だけでなく、1か月ごとの労働時間についても法律上の上限を確認する必要があります。また、変形労働時間制でも、あらかじめ定められた労働時間を超えて働かせた場合などには時間外労働が発生します。法定時間外労働となれば、原則として割増賃金の支払いが必要となりますし、午後10時から午前5時までの深夜労働についても、制度の種類にかかわらず深夜割増賃金の問題が生じます。フレックスタイム制や変形労働時間制は、残業代を削減するための制度ではなく、あくまでも、業務の特性に応じて労働時間を合理的に配置・管理するための制度です。制度を導入する際には、どちらのほうが残業代を減らせるかという視点から考えるのではなく、会社が勤務時間を配置したいのか、それとも従業員に勤務時間帯の選択を委ねたいのかという基準で考えましょう。





 

 従業員自身が仕事の開始・終了時刻を調整できるようにし、育児・介護との両立や生産性の向上につなげたいのであれば、フレックスタイム制が有力な選択肢になります。企画職、研究職、ITエンジニアなど、仕事の進め方について従業員本人の裁量が大きい職種とは相性が比較的よいです。これに対し、店舗、ホテル、工場など、繁忙期と閑散期が明確で、会社の都合で、業務量に合わせた勤務時間の調整をしたいということであれば、変形労働時間制の方が適しているでしょう。どちらの制度を採用するにしても、就業規則の改正や労使協定の締結と合わせて、勤怠管理システムや給与計算の設定も制度に合わせて対応させる必要があります。


令和8年8月14日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹


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