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職場でパワーハラスメントが行われていることを会社の内部通報窓口に申告した場合、その申告は公益通報になるのでしょうか。通常のパワハラ被害の申告について中心的に適用されるのは、公益通報者保護法ではなく、労働施策総合推進法です。ただし、パワハラに暴行や脅迫などの犯罪行為が含まれる場合には、同じ申告が公益通報者保護法の守備範囲にも入ることがあります。両法は、通報・相談した労働者を守るという点では似ていますが、保護しようとしている対象が異なります。
公益通報者保護法は、2条1項で公益通報について定義していて、何らかの社内問題を申告すればすべて公益通報になるわけではありません。申告内容が通報対象事実にあたることが必要で、通報対象事実とは、公益通報者保護法の別表に掲げられた法律について、犯罪行為や過料の対象となる行為、あと、行政処分への違反が最終的に刑罰・過料につながるような法令違反のことをいいます。つまり、公益通報者保護法というのは、広く会社で起きた不適切な出来事を対象とするような法律ではなく、一定の法令違反を告発する人を保護するための法律といえます。
職場のパワハラについては、労働施策総合推進法が規定していますが、パワハラ行為そのものは、同法上の犯罪行為や過料対象行為とはされていません。ですので、消費者庁も、職場で行われたパワハラについての通報は、それだけでは公益通報者保護法上の公益通報には該当しないと説明しています。例えば、上司から、能力がない、辞めてしまえと繰り返し罵倒された従業員が、社内のコンプライアンス・内部通報窓口に申告したとしても、それだけで法律上の公益通報になるわけではなく、公益通報に当たるかどうかは、申告された事実が通報対象事実にあたるかによって判断することになります。
労働施策総合推進法によると、パワーハラスメントとは、職場における優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものとされていて、事業主には、パワハラに関する相談体制の整備など必要な雇用管理上の措置を講じることを義務付けています(パワハラ防止措置義務)。同条2項によると、事業主は、労働者がパワハラについて相談したこと、または会社による相談対応に協力して事実を述べたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとされていて、上司からパワハラを受けたので人事部に相談したという典型的なケースでは、仮に公益通報者保護法の適用がないとしても、労働施策総合推進法による保護は受けます。
パワハラの申告に関し、公益通報者保護法と労働施策総合推進法の守備範囲は完全に分かれているわけではなく、例えば、上司が部下を殴れば刑法の暴行罪や、負傷させた場合には傷害罪が問題となり得ますし、家族に危害を加えるなどと告げれば、刑法上の脅迫罪が成立する可能性もあります。刑法は公益通報者保護法の対象法律なので、パワハラ被害の申告であっても、その内容がこうした犯罪行為についての通報でもある場合には、公益通報者保護法上の公益通報にも該当し得ます。そのようなケースでは、一つの申告に二つの法律が重なって適用されることになり、ハラスメント相談だから公益通報ではない、内部通報窓口に来たからすべて公益通報であるという形式的な処理はすべきではありません。
両法の違いを簡単に言うなら、公益通報者保護法は、一定の法令違反を通報した人を守る制度であるのに対し、労働施策総合推進法は、職場のパワハラについて相談・申告した労働者を守る制度だと整理できるかもしれません。会社の対応においては、この違いを、窓口の名称ではなく、申告された事実の中身から判断することが大事です。パワハラ申告の中に暴行、傷害、脅迫などの法令違反が含まれていないかを確認し、労働施策総合推進法だけでなく公益通報者保護法の適用可能性についても検討するということです。ちなみに、公益通報者保護法については、改正法が2026年12月1日に施行され、公益通報を理由とする解雇・懲戒についての規制・救済が強化されます。企業としては内部通報規程とハラスメント相談規程を別々に管理するだけではなく、両制度が交差する案件を適切に振り分けられる態勢を整えておくことが一層重要となります。
令和8年9月12日
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹