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2026/09/14
ハラスメント

パワハラ指針において、脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言等を精神的攻撃の例として挙げられていますが、それぞれの違いがよく分からないので教えてほしいです





 確かに、厚生労働省のパワハラ指針には、パワーハラスメントの典型例として、精神的な攻撃として、脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言が挙げられています。専門家でもない限り、それぞれの意味や違いを明確に認識できている人は少なく、名誉毀損と侮辱は何が違うのか、暴言ならすべて侮辱なのか、脅迫というからには犯罪になるほどの発言でなければならないのかと疑問を感じておられる方も少なくありません。職場のパワハラについては、労働施策総合推進法が事業主に防止措置を義務付けていて、職場のパワハラを、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③労働者の就業環境が害されるものと整理しています。その代表的な言動の一つが、今回のご質問にある精神的な攻撃ということになります。




 まず、脅迫とは何なのか、刑法の脅迫罪を参考にすると、生命、身体、自由、名誉または財産に害を加える旨を告知して人を脅すことが中心となるイメージです。職場でいうと、言うことを聞かなければどうなるか分かっているな、お前をこの業界で働けなくしてやるなどと、相手に不利益を与えることを示して恐怖を感じさせる言動が典型的な例になります。
 これに対して名誉毀損というのは、相手の社会的評価を低下させる方向の言動のことをいい、例えば、多数の社員がいる場で、Aさんは取引先のお金をごまかしているなどと具体的な事実を述べて、本人の社会的信用を傷つけるケースなどが挙げられます。ここでいう事実というのは、真実という意味ではなく、○○をしたという具体的な事柄を示すという意味なので、内容が虚偽であっても名誉毀損が問題になることはあります。




 侮辱は名誉毀損と似ていますが、具体的な事実を示すことなく相手をおとしめる点に特徴があります。お前は人間として最低だ、役立たず、給料泥棒だといった、具体的な出来事を指摘するというより、相手の人格や能力そのものを蔑む表現が典型例です。名誉毀損と侮辱を大まかに区別するとしたら、○○という問題を起こした人間だと具体的な事実を示して社会的評価を傷つけるのが名誉毀損、無能だ、人間失格だなどといった抽象的な悪口によって相手をおとしめるのが侮辱と理解するとよいかもしれません。




 最後のひどい暴言というは、さらに広い概念として捉えられるもので、例えば、大声で怒鳴り続ける、執拗に罵倒する、人格を繰り返し否定するなどといった言動のことをいいます。刑法上、暴言罪という犯罪は存在しませんが、犯罪に該当しなくても職場において到底許容されないほど攻撃的な発言はあります。パワハラ指針も、人格を否定するような言動、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返すこと、他の労働者の面前で大声による威圧的な叱責を繰り返すこと、能力を否定して罵倒する内容のメール等を複数の労働者に送信することなどを、精神的な攻撃に該当すると考えられる例として挙げています。ただ、部下を厳しく叱れば直ちに精神的な攻撃になるわけではなく、パワハラ指針においても、遅刻など社会的ルールを欠く行動について再三注意しても改善しない労働者に一定程度強く注意することや、企業の業務内容・性質に照らして重大な問題行動をした労働者に一定程度強く注意することなどは、パワハラに該当しないとされています。






 重要なのは、厳しい言葉を使ったかだけではなく、指導の必要性、発言内容、言い方、場所、時間、回数、周囲への公開性、上司と部下の関係などを総合的に見ることです。これは脅迫罪に当たるか、これは侮辱罪かなどとと犯罪名に当てはめることだけにこだわるのではなく、不利益を示して相手を怖がらせたのか、具体的な事実を示して社会的評価を傷つけたのか、人格や能力そのものを蔑んだのか、それ以外でも、業務指導として許される限度を超える激しい罵倒や威圧があったのかという観点から整理することが有用です。脅迫は恐怖を与える、名誉毀損は社会的評価を傷つける、侮辱は人格などを蔑む、ひどい暴言はこれらに限られない著しく攻撃的・威圧的な言動と整理すると、それぞれの違いが見えやすくなるかもしれません。ただ、最終的なパワハラ該当性は、こうした名称だけで決まる訳ではないので、労働施策総合推進法とパワハラ指針が示す三つの要件に照らし、具体的な状況を踏まえて判断する必要があることは変わりません。


令和8年9月14日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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