最近、セクシャルハラスメント関連の報道が跡を絶ちません。
言うまでもなく、性別、性自認、性的志向にかかわらず、人から人への性的なハラスメントはすべてセクシャルハラスメントとして評価されます。
セクシャルハラスメントを強いて定義付けるとしたら、「相手方の意に反する性的言動」ということになるでしょうか。
この定義からは、家庭内での言動、公道での言動、学校内での言動、公共交通機関内での言動等、相手方の意に反して性的言動をすることは、すべてセクシャルハラスメントに含まれそうです。
しかし、一般的にセクシャルハラスメントという場合、歴史的に、職場における女性差別の一態様のことをセクシャルハラスメントと呼ぶようになったという経緯もあり、職場における性的言動のことを指すことが多いです。ただ、現在では、セクシャルハラスメントは様々な場所での相手の嫌がる性的言動として捉えられており、職場におけるものだけに限定されているわけではありません。例えば、先生の生徒に対する言動、医師の患者に対する言動、弁護士の依頼者に対する言動などについても、セクシャルハラスメントと呼ばれることがあります。
この先生の児童に対するハラスメント、医師、弁護士らによる患者、依頼者らに対するハラスメントなどは、セクシャルハラスメントというよりは、以下の刑法上の不同意わいせつ罪等に該当するのではないかと思われる方もおられるかもしれません。
おっしゃるとおりで、これらの行為が刑法の不同意わいせつ罪の要件に該当すれば、不同意わいせつ罪の容疑で逮捕される可能性も当然あります。
刑事法上、セクシャルハラスメント罪というのは存在しないので、わいせつな行為をした人に刑事罰を科す場合は、刑法の不同意わいせつ罪、迷惑防止条例違反等の適用を考えることになるでしょうし、民事上の責任追及をする場合においては、セクシャルハラスメントという用語を用いることが多いかもしれません。ただ、一つの行為が、不同意わいせつ罪の実行行為にもセクシャルハラスメントにもあたることはあるので、択一的な関係という訳ではありません。
刑法176条(不同意わいせつ)
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直
面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又
はそれを憂慮していること。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上であ
る場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、
第一項と同様とする。
一方、労働分野に関する法令の中でセクシャルハラスメントについて書かれているのは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)になり、以下のように規定されています。
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応に
より当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労
働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応
するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
4 厚生労働大臣は、前三項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ
有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。
この男女雇用機会均等法11条4項を受け、厚生労働大臣は、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を定めています。
次回以降は、この指針の内容についてお話ししようと思います。