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2025/11/13
その他(労務関連)

そもそも労働者とは・・



労働者って何っていきなり聞かれたら、文字どおり、労働する人のことじゃないのかと回答される方は多いかもしれません。そのような回答も間違いではないでしょうし、この定義だと、主婦等の家事従事者も労働者に含まれることになるでしょう。人によっては、金銭をもらうことと引き換えに労働力を提供する人と定義づけることもあるかもしれません。この定義に従うと、家事従事者は労働者ではないということになります。



でも、家事従事者って、家族のために家事労働に従事する者だよなと考えると、給料をもらっていない家事従事者も労働者に含めるべきじゃないのかと思わなくもないし、労働者に含めないから、ワーク(家庭外)・ワーク(家庭内)・バランスじゃなくて、ワーク・ライフ・バランスとかいうよく分からない言葉が蔓延するんじゃないかと思ったりもします。




ところで、労働法の分野では、 「労働者」ってどのように定義づけられているのかご存じでしょうか。労働者でなければ、労働者を保護する労働法による恩恵を受けられないのが原則。



働き手の多様化が加速する中、この「労働者とは誰か」という問いは、労務管理・コンプライアンスの核心に位置づけられています。特にフリーランス、副業・兼業人材、クラウドワーカーを活用する企業では、「契約書上は業務委託だが、実態は労働者」という指摘を受けるリスクが顕在化しています。契約の実態は労働契約であると評価されると、契約の形式、名称等にかかわらず、労働関係法規による保護の対象となるのです。



民法、労働基準法、労働契約法、労災保険法等の文言との関係では、「労働者」に当するか否かが問題となり、民法上の「労働者」に該当すれば民法の雇用契約に関する各条項の適用を受け、労働基準法上の「労働者」に該当すれば、適用除外に当たらない限り、、同法上の労働時間、休憩、休日、年次有給休暇等に関する条項の適用を受け、労働契約法上の「労働者」に該当すれば、これも適用除外に当たらない限りは、同法上の解雇権濫用法理、就業規則の効力、懲戒権濫用法理、出向命令権の濫用法理、安全配慮義務などに関する各条項の適用を受けることになります。

(引用:菅野和夫・山川隆一「労働法」第13版、190~191頁)



民  法

(雇用)

第623条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

(報酬の支払時期)

第624条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。

2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。


(履行の割合に応じた報酬)

第624条の2 労働者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。

一 使用者の責めに帰することができない事由によって労働に従事することができなくなったとき。

二 雇用が履行の中途で終了したとき。


(使用者の権利の譲渡の制限等)

第625条 使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。

2 労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。

3 労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは、使用者は、契約の解除をすることができる。


(期間の定めのある雇用の解除)

第626条 雇用の期間が五年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。

2 前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは三箇月前、労働者であるときは二週間前に、その予告をしなければならない。


(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。


(やむを得ない事由による雇用の解除)

第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。


(雇用の更新の推定等)

第629条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。

2 従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。


(雇用の解除の効力)

第630条 第620条の規定は、雇用について準用する。


(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)

第631条 使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には、雇用に期間の定めがあるときであっても、労働者又は破産管財人は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。この場合において、各当事者は、相手方に対し、解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。




上記のとおり、民法には、労働者の定義について書かれていませんが、労働契約法及び労働基準法には、以下のとおりの定義が書かれています。



労働契約法 第2条

労働基準法 第9条




この二つの法律に書かれている 「労働者 」の定義は、同じように見えて少しだけ違っています。 「賃金を支払われる 」という要件は同じですが、労働契約法では  「使用者に使用されて 」と書かれているのに対し、労働基準法では、「事業または事務所に使用されて」と書かれています。


この点、両法における 「労働者 」は、労働基準法上、 「事業又は事務所に使用される者 」という加重的(限定的)な要件が付加されている以外は、基本的には同一の概念であると解されています。


ここでいう事業とは、 「工場、鉱山、事務所、店舗等の如く、一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体 」をいいます。そうなると、個人が一時的に介護労働者、大工、植木職人を使用する場合などは、民法上の雇用契約または労働契約法上の労働契約となる可能性はあったとしても(委任契約、請負契約と評価されることもある)、業としての営みがないので、労働基準法上の労働者には当たらず、労働基準法の適用からは外れることになります。


このように、労働法の分野においては、各法律ごとに「労働者」の定義が異なることがあるので(同一の場合も当然ある)、特定の法律による保護を受けられるのかについては、慎重に検討する必要があります(ほんとややこしいですよね・・)。ただ、基本的には、労働契約法上の「労働者」の定義にあてはまるかを検討し、例外的に個人に一時的に雇われているようなケースに限り、別途、労働基準法上の「事業又は事務所に使用される者」に当たるかという要件を検討することになると思います。


この労働契約法上の「労働者」に該当するかについては、大きく分けると、①使用者の指揮監督下において労務の提供をするものであること②労務に対する対償を支払われる者であることの2つの要件を満たす場合に 同法の適用を受ける「労働者」として認められることになります。



これらの要件は抽象的で、かつ、両者は密接に関連していることから、労働基準の監督行政や裁判例では、①,②を合わせて「使用従属関係にあること」と概括的に表現した上で、労働関係の様々な要素を吟味し、それらを総合して労働者性を判定するというのが確立した判断方法となっています。その際、具体的な判断基準として実務上参照されているのが、労働省労働基準法研究会報告書「労働基準法の『労働者』の判断基準について」です。


これによると、以下のように整理されています。

1 「使用従属性」に関する判断基準

(1)「指揮監督下の労働」であること

    ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

    イ 業務遂行上の指揮監督の有無

    ウ 時間的・場所的拘束性の有無

    エ 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)

(2)「報酬の労務対償性」があること

2 「労働者性」の判断を補強する要素

(1)機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性

(2)専属性の程度

(3)、採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であるか否 

   か、②報酬について給与所得としての源泉徴収を行っているか否か、③労働保険の適用

   対象とされているか否か、④服務規律を適用しているか否か、⑤退職金制度、福利厚生

   の適用の有無等




この労働者性に関しては、一定の職種等については別途、行政の解釈例規が示されてたところ、令和7年3月、厚生労働省労働基準局が当該解釈例規の関係部分をまとめた通達を出しているので、興味のある方はご覧くださいね。

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