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2026/08/13
休職関連

 休業命令と自宅待機命令の違いがよく分からないので教えてほしいです





 社員を休ませるという点では同じように見える休業命令と自宅待機命令ですが、この二つは法的な意味が大きく異なります。今日は自宅待機して(呼び出されたいつでも出社できる態勢を整えておいておいて)くださいと会社が伝えたにもかかわらず、休業手当しか支払っていなかったり、逆に通常賃金を支払うべきケースで休業手当しか支払わなかったりする例も少なくありません。特に近年では、新型コロナウイルス感染症への対応や不祥事調査、ハラスメント調査などを契機として、自宅待機命令を活用する企業が増えています。その一方で、休業と自宅待機が混同されることも多く、労使トラブルの原因の一つになっています。




 

 休業とは、労働者は働く意思も能力もあるにもかかわらず、会社側の事情によって就労させない状態のことをいいます。代表例としては、仕事が減少した場合、設備故障により操業できない場合、材料不足で仕事がなくなった場合などが挙げられます。このような休業については、労働基準法26条が適用され、使用者の責に帰すべき事由による休業として、会社は平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わう必要があります。ここでいう使用者の責に帰すべき事由というのは、労働者保護の観点から広く解釈されるべきとされていて、受注減少や経営判断による休業など、通常の企業経営に伴うリスクは原則として会社が負担すべきものと考えられています。 ですので、工場の受注が急減し、生産ラインを停止するため従業員を休ませる場合には、会社都合による休業となるため、少なくとも平均賃金の60%以上の休業手当が必要になります。





 一方、自宅待機命令には大きく二つの類型があって、一つ目は、会社から連絡があればいつでも出勤できるよう、自宅で待機してくださいという趣旨の命令です。この場合、労働者は完全に自由な時間を過ごしているわけではなく、会社から呼び出しがあれば直ちに出勤する義務を負っているため、会社の指揮命令下に置かれている(労務提供義務が継続している)状態として、通常どおりの賃金を支払う必要があります。例えば、システム障害が復旧するまで数時間だけ自宅で待機するよう命じる場合や、大雪で交通機関の復旧を待つために自宅待機させる場合などがこれに当たります。






 二つ目は、労務の提供自体を免除して、自宅で過ごさせるものです。この場合、会社が自宅待機と呼んでいても、労働者が自由に外出でき、会社から呼び出されることも予定されていません。実質的には休業といえるので、労働基準法26条に基づく休業手当の支払いで足りるのか(場合によってはその支払いさえ不要か)、それとも賃金全額を支払うべきかという問題になります。例えば、横領の疑いがある社員について証拠隠滅を防ぐため、自宅待機を命じるようなケースがあります。このような自宅待機は、懲戒処分そのものではなく、調査のための業務命令として位置付けられることが一般的なので、会社が一方的に就労を拒否している以上、原則として賃金を支払う必要があります。ただし、証拠隠滅のおそれがあるなど合理的な理由が認められる場合には、就業規則の定めや具体的事情によって賃金支払義務が否定される余地もあり、この点は個別事情による判断となります。





 出勤停止と自宅待機も混同されやすい概念です。出勤停止というのは、就業規則に基づく懲戒処分で、一定期間就労を禁止する制裁のことをいいます。これに対し、自宅待機命令は懲戒ではなく業務命令です。出勤停止には就業規則上の根拠が必要であり、適正な手続も要求されますが、自宅待機命令は業務上の必要性と合理性が認められれば命じることができます。ただし、必要以上に長期間継続すると権利濫用と評価される可能性もあるので注意が必要です。実際のところ、自宅待機だから休業手当で十分、会社へ来なくてよいのだから給料は不要という誤解をされているケースもありますが、会社から呼び出しに応じる義務があるのであれば通常賃金を支払う必要があり、会社側の事情による休業であれば少なくとも平均賃金の60%以上の休業手当の支払いが必要になります。






 一方で、台風による影響で外出が危険とされている場合や従業員が新型コロナウィルスに感染した場合等、会社側の責に帰すべき事由による休業とはいえない場合は、休業手当の支払いも必要ではありません。悩ましいのは、風邪をひいたという従業員を休ませる場合に、休業手当を支払うべきかどうかの判断です。従業員自ら休ませてほしいと連絡してきた場合は、会社からの指示で休ませるわけではないので通常の欠勤扱い(その分の賃金を控除するか否かは会社の就業規則の内容次第)で問題ありません。それに対し、従業員からは休ませてほしい旨の意思表示がない場合は、会社としては、その従業員個人に対する健康配慮義務、職場環境配慮義務を負っている関係で、自宅待機を命じるか否かの判断が必要となります。仮に、自宅で仕事をさせるのであれば、通常の賃金を支払うべきとなりますが、その日の労務提供を完全に免除するとなると、休業手当を支払うべきか支払わなくてもよいのか悩むことになるかもしれません。従業員が通常の風邪と言われる季節性インフルエンザに罹患している(そのおそれがある)場合は、感染症法上、五類感染症に分類されている季節性インフルエンザには就業制限がないので、原則として、会社側の事情による休業として手当を支払う必要があると考えるべきでしょう。一方で、感染症法の規定に基づき就業制限されているような事情がある場合は、会社側の判断や都合で休ませるわけではないので、休業手当の支払い義務は発生しないのが原則です。


令和8年8月13日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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