懲戒解雇に関係する条文を挙げてみましょう。
労働基準法
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
労働契約法
第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
事業場(企業全体ではなく)において常時10人以上の労働者を使用している場合に、就業規則の作成、届け出義務が発生します。常時10人未満の事業場では、就業規則の作成、届け出義務はありませんが、懲戒事由等が書かれた就業規則(個別契約書)等がない場合、従業員に対し懲戒処分を行うことができないことに注意が必要です。
労働契約法(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
懲戒処分(懲戒解雇を含む)が無効になる場合を規定しています。
労働契約法(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
期間の定めのない労働契約を締結している労働者を懲戒解雇する場合、この条文も適用されますが、15条の「客観的に合理的な理由」、「社会通念上相当であると認められる」という要件と同じであるため、適用する意味はないかもしれません。
労働契約法(契約期間中の解雇等)
第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
期間の定めのある労働契約を締結している労働者を懲戒解雇する場合には、この条文も適用されます。
この「やむを得ない事由」というのは、15条、16条の「客観的に合理的な理由」、「社会通念上相当であると認められる」という要件よりも厳しいことから、期間の定めのある労働契約を締結している労働者を懲戒解雇する場合は、「やむを得ない事由」という要件を満たすか検討することになります。
これらの法律の規定を受け、懲戒解雇できる場合の基本的な要件としては、以下のように整理されます。
・就業規則、個別契約書に懲戒解雇事由が明確に規定されており、従業員に周知されている
こと
・ 従業員が懲戒解雇事由に該当する行為を行ったこと
・ 懲戒解雇処分が権利濫用に当たらないこと