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2025/08/07
賃金・労働時間

年俸制の導入


給与の支払い形態にはいくつかの種類がありますが、その中でも「年俸制」は、労働者に支払われる年間の賃金総額をあらかじめ決定し、それを12か月または14か月などの回数に分けて支給する制度です。例えば、「年俸600万円」と定められた場合、月額に換算すれば50万円となり、それを毎月支払う形になります。ボーナスを含む年俸額である場合は、12か月の基本給+夏冬賞与に分割されていることもあります。



特に専門職や管理職を中心に採用されることが多く、その背景には企業側の意図やメリットが存在します。一方で、運用を誤るとトラブルにつながるケースもあるため、導入には一定の注意が必要です。



年俸制を採用するにあたっては、就業規則や労働契約書にその内容を具体的に明記しておく必要があります。たとえば、「年俸額は業績評価に応じて毎年見直す」「年俸額の支給方法は12分割する」「賞与相当額を含む」など、具体的な運用ルールが明記されていなければ、後々トラブルに発展する可能性があります。


実務上は、年俸制を導入する際には、以下の点を明確にしておくことが望まれます。


① 年俸額の構成(基本給+賞与相当額など)

② 支払い方法(12分割か、14分割か)

③ 残業代の有無・扱い

④ 契約期間(有期か無期か)

⑤  次年度契約時の見直しの基準(評価制度との連動など)




勘違いされやすいのですが、年俸制 = 必ずしも有期雇用契約ではありません。「年俸制」という賃金の支払い方法と、「有期契約か無期契約か」という雇用形態の種類は、別の概念です。繰り返しになりますが、「年俸制」というのは、あくまでも給与の決め方の一種で、月給制や時給制と並ぶ賃金体系であり、年間の給与総額をあらかじめ定めて、それを12分割・14分割などで支払う方式のことです。

一方で、「有期雇用契約」か「無期雇用契約」かは、雇用契約そのものの期限の有無に関する分類です。



したがって、年俸制の有期雇用年俸制の無期雇用のどちらも存在します。



ただし、実際の人事実務では、「年俸制」と「1年ごとの有期雇用契約(または更新制)」をセットで運用している企業が多く見られます。



一方で、正社員(無期雇用)かつ年俸制の課長職であったり、定年までの雇用が前提となっている年俸制の専門職など、無期雇用契約でありながら、給与の支払い方法として年俸制を採用しているケースも珍しくありません。




年俸制を採用する場合の使用者側のメリットは、以下のようなものが挙げられるでしょう。

① コスト管理がしやすくなる


年俸制では、年間の人件費があらかじめ確定するため、企業側としては予算管理がしやすいというメリットがあります。月給制や業績連動型賞与と異なり、「年収総額」での契約となるため、賞与や残業代の変動幅が少なくなり、経営計画との整合性を取りやすくなります。



② 成果主義との相性がよい


次に挙げられるのが、人事評価と報酬を連動させやすいという点です。年俸制では、年1回の評価に基づいて次年度の年俸額を決定するケースが一般的です。そのため、高い成果を上げた社員には報酬で応える一方、期待に届かなかった社員には年俸を据え置く、あるいは減額することも可能となり、能力や成果に応じたメリハリある処遇が実現できます。



③ モチベーション向上や人材確保につながる可能性


年俸制は、優秀な人材に対して「高額の年俸提示」ができる制度でもあります。スタートアップ企業や外資系企業など、即戦力を必要とする場面では、人材獲得の武器として活用できるでしょう。また、年収ベースで処遇を説明できるため、候補者との条件交渉もスムーズに進みやすくなります。




一方、年俸制にはデメリットや注意点も存在します。



① 長時間労働・残業代の扱いでトラブルになりやすい


年俸制を導入したからといって、残業代を払わなくてよいわけではありません。

「年俸には残業代が含まれている」と誤解しがちですが、法的には時間外労働が発生した場合には、原則として割増賃金を支払う義務があります。 これを怠ると、未払い残業代請求や労基署からの是正勧告につながるリスクがあります。



② 評価制度・契約管理が煩雑になりやすい


年俸額の見直しは通常、年1回の評価結果に基づいて行われますが、評価基準が不明確であったり、納得感の低い評価を行うと、社員のモチベーション低下や紛争の火種になりかねません。さらに、毎年の契約更新(特に有期契約の場合)や年俸額の変更通知など、契約管理業務が煩雑になる点も課題です。



会社が年俸制を導入する際は、これらのメリット・デメリットを十分に検討した上で進めることが重要です。

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