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2025/09/01
その他(労務関連)

医師の宿日直許可とその実務的ポイント


医師の働き方改革が進む中で、過重労働の象徴ともいえる宿日直勤務をいかに減らすことができるかという点も、検討課題の一つになっています。
宿日直勤務とは、病院に宿泊し夜間・休日に、患者の病室の巡回、要注意患者の問診や検脈、電話対応、入院患者の急変対応などを行う勤務形態のことをいいます。



問題となるのは、これが「労働時間」と評価されるのか、それとも「宿日直許可」を受けることで労働時間規制の対象外とすることができるのかという点です。医療機関では、患者対応のために夜間・休日も常時待機が必要となる場合が多く、形式的に全てを労働時間とすると病院経営や地域医療の維持が困難になってしまうことから、宿日直許可を得ることは病院経営においては死活問題とも言えます。




                宿日直勤務の法的根拠


労働基準法第41条3号は、「監視又は断続的労働に従事する者」については労働時間規制を適用しないとしています。厚生労働省はこの規定を根拠に、宿日直勤務について「通常業務がほとんどなく、労働密度が低い場合」に限り、労働基準監督署の許可を得れば労働時間規制の適用除外とできると解釈しています(昭和63年3月14日基発150号通達)。


(労働時間等に関する規定の適用除外)
労働基準法第41条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの




つまり、宿日直許可を受けることで、宿日直勤務している時間を労働基準法の適用を受ける「労働時間」とせずに扱えるのです。ただし、許可を得ないまま形式的に宿日直手当のみを支給していると、労働基準法違反と判断され、通常の残業代等を請求される可能性があります。



                 医師の場合の特例



医師については、地域医療を維持する観点から、厚生労働省が特別に基準を設けています。具体的には、宿日直勤務において「軽度の診療行為や急変対応が時折発生する程度」であれば、宿日直許可の対象になり得るとされています。ただし、救急患者の受け入れが頻繁にあるなど実態として通常勤務と変わらない場合には、許可の範囲を超えて労働時間とみなされます。



病院が医師の宿日直勤務を導入する際は、以下の点に注意が必要です。


  1. 労基署への申請:宿日直許可を取得するには、勤務実態や宿日直中の業務内容を明示した申請書を労働基準監督署に提出する必要があります。申請には労使協定や勤務体制の詳細資料が求められることがあります。


  2. 業務実態の把握:救急外来の受入件数や、夜間の診療対応の頻度を記録し、許可の要件に合致しているかを確認することが不可欠です。労働基準監督署は、宿直日誌などの記録を重視して判断します。


  3. 適切な手当の支給:労働時間とみなされない場合でも、宿日直手当を十分に支給することが求められます。手当が極端に低い場合は労務トラブルや訴訟につながりかねません。


  4. 見直しの継続:医療需要の変化に伴い宿日直勤務の実態が変化することも多いため、定期的に見直しを行い、必要に応じて許可を取り直すことが重要です。許可は「永続的」ではなく、状況に応じて更新が求められる場合があります。




医師の宿日直勤務は、地域医療を支える重要な仕組みである一方、医師の過重労働防止の観点からは、労働基準法の厳格な運用が求められています。宿日直許可を適正に取得・維持することは、病院にとって法令遵守の基本であると同時に、医師の過重労働防止にも直結します。厚労省による基準を踏まえた透明性の高い運用を心がけることで、労務リスクを回避しつつ、地域医療を持続可能な形で守ることができます。

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