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病院や介護施設、設備管理などの職場では、勤務時間外でも緊急の連絡に対応できるよう、従業員に自宅での待機を求めることがあります。いわゆるオンコール待機と呼ばれるもので、夜間や休日に携帯電話を持たせ、緊急の連絡があれば電話で対応したり、必要に応じて職場に駆けつけたりするよう指示するような場合に使われます。このような待機時間について、会社は賃金を支払う必要があるのか、悩まれている方は結構多いと思います。自宅でオンコール待機をしているというだけで、その時間すべてが労働時間になるわけではありませんが、待機中の行動が強く制限されている場合には、実際に仕事をしていない時間も労働時間に該当する可能性があるので注意が必要です。
労働基準法上の労働時間については、厚労省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」において、「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務時従事する時間は労働時間に当たる」とされています。これによると、実際に作業をしているかどうかだけでなく、会社の指揮命令によって、従業員の時間がどの程度拘束されているかが重要になります。会社の施設内で待機し、仕事が発生すれば直ちに対応しなければならない場合には、実際に作業をしていない時間も労働時間にとされる可能性が高いでしょう。
それに対し、自宅でのオンコール待機の場合、会社の施設内で待機する場合とは事情が異なり、電話がかかってくるまで食事をしたり、テレビを見たり、場合によっては家族と外出(近郊の場所)したりすることもできます。一定の制約はあるとしても、その時間を私生活のために利用できるのであれば、会社の指揮命令下に置かれているとは限らないので、自宅(又は外出先)で待機している時間については、具体的な拘束の程度によって判断することになります。例えば、緊急連絡があった場合には必ず電話に出なければならず、連絡から10分以内に職場へ到着するよう求められているケースにおいては、従業員は自宅から遠くへ外出することができず、飲酒なども事実上制限され、常に緊急の呼出しを意識しながら生活せざるをえず、私生活の自由は大きく制約されます。さらに、呼出しが頻繁に発生し、実際に夜間の対応を繰り返しているのであれば、待機時間全体が労働時間に該当すると判断される可能性は高くなると思われます。
反対に、連絡が入ることは月に数回程度であり、電話に出られなければ別の担当者が対応するような仕組みになっているのであれば、従業員は待機中も比較的自由に過ごすことができ、会社による拘束も限定的といえるので、待機時間全体を労働時間と評価する必要性は低くなるでしょう。誤解が生じやすいのは、携帯電話を持っていることや、連絡があれば対応する義務があることだけで、直ちに待機時間全体が労働時間になるわけではないという点です。呼出しに応じる義務の強さ、対応までに認められる時間、外出や飲酒などの制限、実際の呼出し頻度、対応できなかった場合の不利益などを総合的に考える必要があります。仮に、待機時間全体が労働時間に該当しない場合でも、実際に電話で業務上の指示を出したり、パソコンでトラブル対応を行ったりした時間は、原則として労働時間に該当します。職場に呼び出されて業務を行った場合も同様ですが、この場合、自宅から職場への移動時間については、通常の通勤と同じ性質のものなのか、会社の指揮命令下で行われる業務上の移動なのかによって、別途判断する必要があります。
実際のところ、オンコール待機に対しては、会社が、一定の手当を支給していることが多いと思いますが、そのような手当を支給したからといって、法律上の労働時間が労働時間でなくなるわけではありません。待機時間全体が労働時間に該当するのであれば、その時間について労働基準法上必要な賃金を支払う必要がありますし、法定労働時間を超える場合には時間外割増賃金、深夜時間帯には深夜割増賃金の問題も生じます。ですので、会社としては、オンコール手当を支給しているから問題ないと考えるのではなく、まず待機時間の実態を確認する必要があります。
オンコール待機については、労使間で誤解が生じないよう、事前にルールを明確にしておくことが重要です。実際に電話対応や出動が発生した場合には、その開始時刻と終了時刻を記録し、労働時間として適切に管理する必要があります。会社にとっては、緊急対応を確実に行うため、従業員に厳しい待機義務を課したいという事情もあると思いますが、拘束を強めれば、それだけ待機時間全体が労働時間と判断されるリスクも高まります。反対に、緊急連絡への対応時間に一定の余裕を設けたり、複数の担当者による交代制を採用したりすることで、待機中の自由度を高めれば、労働時間と判断されるリスクは抑えられますが、緊急対応の確実性が低下する可能性も出てくるので、会社としては、緊急対応の必要性と従業員の自由時間の確保を両立できる仕組みを検討することが大切になります。
令和8年11月2日
弁護士 石上秀樹