.jpg)
確かに、1回の喫煙時間が10分程度であっても、1日に何度も繰り返されれば、相当な時間になります。真面目に働いている他の従業員から不満が出ることもありえます。待機時間に暇を持て余しついついタバコを吸ってしまうということであれば、そもそも待機時間なのだからということで問題ないでしょう。問題になるのは、休憩時間でも待機時間でもないまさに業務従事時間中にタバコを吸いに行ってよいのかというところで、これがタバコではなくゲームをしに行ったとかであれば誰が考えてもアウトです。なぜタバコは許されてきてゲームはアウトなのか。少し前までは、トイレと同じような感覚で多くの人がタバコを吸いに行き、周りもそれを当たり前だと思っていたということもあるのかもしれません。
労働基準法上の労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。実際に作業をしている時間だけでなく、業務の指示があれば直ちに対応しなければならない待機時間なども、労働時間に含まれます。これに対し、休憩時間とは、労働者が労働から解放され、自由に利用することを保障されている時間のことをいい、労働基準法34条は、一定時間を超えて労働させる場合には休憩を与えることを義務付け、その自由利用を保障しています。喫煙時間を賃金の支払対象から除外できるかどうかは、その時間が労働時間に当たるのか、それとも労働から解放された休憩時間に当たるのかによって判断することになります。
例えば、従業員が上司の許可を得て喫煙所へ行き、その間は電話対応や来客対応などの業務から完全に解放されているのであれば、喫煙時間を労働時間に含めないという対応も考えられるかもしれません。反対に、喫煙中であっても業務上の連絡に対応し、必要があれば直ちに職場へ戻ることが求められている場合には、使用者の指揮命令下にあるとして、労働時間に該当する可能性が高いでしょう。タバコを吸う立場の人からすると、タバコを吸いながら仕事のことをいろいろと考えているのだと、同じ場所で吸っている他の課の人から有益な情報を得られることもあるし、タバコを吸いながらも実は仕事をしてるんだという感覚の方もおられるでしょう。従来、会社が勤務時間中の短時間の喫煙を容認し、賃金を控除せずに取り扱ってきた背景には、そのような事情もあるのだと思います。
仮に、従来有給で取り扱われていた時間を無給に変更するのであれば、労働条件の不利益変更として、就業規則の変更が必要になり、その合理性も問題になりえます。月給制の場合であれば、賃金の計算方法や欠勤控除に関する定めも確認した方がよいでしょう。控除の根拠や計算方法が不明確なまま、会社の判断で金額を差し引くことは避けるべきです。実際控除するにしても、難しいのが喫煙時間の把握です。1日に5回喫煙所へ行く従業員がいたとして、毎回10分間喫煙しているとは限らないですし、5分で戻ることもあれば、15分かかることもあるでしょう。正確な記録がないにもかかわらず、1回10分として機械的に賃金を控除すれば、実際には労働していた時間まで控除してしまうおそれがあります。無給扱いとするのであれば、喫煙のために業務から離れる際には開始時刻と終了時刻を記録するなど、客観的に時間を管理しておく必要が出てきます。そうなると、記録制度の導入自体が別途必要となり、ただでさえ忙しい管理者による確認作業が増えることになりかねません。
そんな面倒な制度を導入するのではなく、会社が本当に解決したい問題は何かということを考えた方がよいかもしれません。喫煙時間が長い従業員への不満は、必ずしも賃金の問題だけではなく、他の従業員に仕事の負担が偏ることや、勤務時間中に自由に職場を離れる従業員とそうでない従業員との不公平感である場合も多いのではないでしょうか。そうであれば、賃金控除という方法だけにこだわる必要はなく、会社としては、勤務時間中の喫煙を昼休みなどの所定休憩時間に限ることや、所定休憩時間以外の私的な離席については事前の許可を求めることなども検討対象となります。業務に支障のない範囲で短時間の私的な離席を認める運用も考えられるでしょう。その場合には、喫煙者だけを特別扱いするのではなく、飲み物を買いに行く時間や私的なスマートフォンの利用なども含め、従業員間の公平性に配慮します。このような、公平性に配慮した対策を講じたとしても、特定の従業員が長時間の喫煙を繰り返し、業務に支障を生じさせているような場合には、個別に注意・指導することも考えられますし、よほど悪質なケースで正当な業務命令に繰り返し違反するようであれば、就業規則に基づく懲戒処分も検討することになります。
令和8年10月12日
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹