.jpg)
小学生までの子どもを養育している従業員について、育児と仕事の両立支援を充実させようとした場合、短時間勤務制度とフレックスタイム制の二つは有力な選択肢になります。両者は似ているようで、解決しようとしている問題は異なっていて、短時間勤務は働く時間の長さを減らす制度であるのに対し、フレックスタイム制は働く時間帯を柔軟にする制度です。どちらを採用すべきかは、育児中の従業員が何に困っているのかと、会社がどの程度勤務時間帯を固定する必要があるのかによって考える必要があります。
法律に関していうと、3歳未満の子を養育する労働者については、育児・介護休業法23条1項により、事業主には労働者の申出に基づき短時間勤務制度を設ける義務があり、その制度には1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含める必要があるとされています。ですので、該当する労働者から申出がある限り、会社が短時間勤務かフレックスか好きな方を採用するという問題ではなく、法律上短時間勤務制度を整備する必要があります。これに対して、3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者については、事業主は、「始業時刻等の変更」「テレワーク等」「保育施設の設置運営等」「養育両立支援休暇の付与」「短時間勤務制度」の5つの措置の中から2つ以上を選択して講じることが義務付けられていて、労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができ、フレックスタイム制は、このうち始業時刻等の変更の一つとして位置付けられています。
小学校に入学した後については、この柔軟な働き方に関する措置義務の対象からは外れるので、会社が小学生までを対象として短時間勤務やフレックスタイム制を認めるのであれば、法定義務を上回る独自の両立支援制度として設計することになります。その部分について、短時間勤務とフレックスタイム制を選び分けの基準ですが、第一には、従業員が時間の量に困っているのか、時間の位置に困っているのかということで分けられます。例えば、通常は9時から18時までの勤務ですが、保育園への迎えのため16時には退社しなければならないという従業員であれば、短時間勤務が適しているでしょう。育児に必要な時間そのものが長く、8時間働くこと自体が難しいからです。それに対して、子どもを朝に学校へ送り出してから出勤したいので、9時出勤は難しいが10時なら出勤できる、あるいは学校行事のある日は早く退社する代わりに別の日に長く働けるという従業員であれば、フレックスタイム制の方が適しているかもしれません。
会社の立場からすると、その仕事は、何時に行う必要があるのかという別の判断基準もあります。例えば、顧客対応のため午前9時から担当者が必要な窓口業務や、チーム全員が同じ時間に作業する必要のある製造業務では、従業員が自由に始業・終業時刻を決めるフレックスタイム制とは相性がよくありません。このような仕事では、9時から16時まで勤務するといった短時間勤務の方が、会社として必要な人員配置を予測しやすくなります。反対に、企画、法務、経理、システム開発など、成果物や期限が重要で、仕事をする時刻そのものの重要性が比較的低い業務では、フレックスタイム制との相性がよくなります。
従業員が育児の都合に合わせて始業・終業時刻を調整しても、清算期間を通じて必要な労働時間を確保できれば、会社側も労働力を大きく失わずに済みます。ここは短時間勤務との大きな違いで、短時間勤務では、例えば1日8時間を6時間にすれば、会社が受けられる労務提供そのものが2時間減ります。ノーワーク・ノーペイの原則に従って短縮時間に対応する賃金を減額することは可能ですが、それでも業務量の再配分や代替要員の確保が必要になることがあります。それに対し、フレックスタイム制は、基本的には総労働時間を減らす制度ではないので、朝1時間遅く出勤した分を別の日や別の時間帯で働くことができます。その意味では、会社にとって人員不足への影響を抑えながら育児支援を行いやすい制度といえます。
どちらの制度を採用するにしろ、制度を一度導入すると、会社側にもその制度に従って運用する必要が生じますので、制度を設計するときには、できるだけ手厚い制度を作ろうと考えるだけではなく、自社の業務に無理なく継続できる制度なのかという点も考えておくべきです。場合によっては、育児によって8時間働くことが難しい社員には短時間勤務を認め、総労働時間は維持できるが勤務時刻の調整が必要な社員にはフレックスタイム制を利用してもらうという使い分けもできます。職種によってフレックスタイム制との相性が異なるのであれば、対象業務を合理的に区分して制度設計するという方法もありえます。
会社としては、対象となる従業員の希望を基本に、その仕事は何時に行う必要があるのか、総労働時間を維持する必要があるのか、業務を他の社員に再配分できるのかという三つの視点から検討することになります。育児支援制度は、手厚ければ手厚いほどよいというものでもありません。社員にとって利用可能であると同時に、会社にとっても継続的に運用できることが重要です。短時間勤務とフレックスタイム制の性質の違いを踏まえ、自社の業務と社員の育児上のニーズの双方に合う制度を組み合わせることが、現実的な制度設計になります。
令和8年10月4日
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹