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2026/10/03
各種保険

建設現場で働いていた時に他社の従業員から暴行を受けケガを負ったのですが、このような場合でも、労災請求したら認められるのでしょうか



 建設現場では、元請会社、下請会社、孫請会社など、複数の会社の従業員が同じ場所で作業していることがあります。そのような現場で、作業中に他社の従業員とトラブルになり、殴られてケガをした場合、仕事中のケガではあっても、故意の暴行による怪我の場合は労災にならないんじゃないかと考える方もいるかと思います。しかし、暴行によるケガであっても、労災と認められることはあります。


 労災保険における業務災害というのは、簡単にいうと、仕事が原因となって生じた負傷や疾病のことで、業務災害と認められるためには、労働者が事業主の支配下にある状態で災害が発生したという業務遂行性と、その災害が業務に内在する危険の現実化と評価できるという業務起因性の両方が認められることが必要となります。仕事中に建設現場で作業している最中であれば、通常、業務遂行性は認められるでしょう。問題は、他人から暴行を受けたことについても業務起因性を認められるかです。




 この点について、厚生労働省は「他人の故意に基づく暴行による負傷の取扱いについて」という通達の中で、業務に従事している場合や通勤途中に他人から故意に暴行を受けて負傷したときは、その暴行が私的怨恨に基づくもの、自招行為によるものなど、明らかに業務に起因しない場合を除き、業務に起因するもの、または通勤によるものと推定するとしています。これによると、人に殴られたという理由だけで労災から除外されるわけではなく、むしろ仕事中に受けた暴行については、仕事とは無関係な私的事情によることが明らかでない限りは、業務災害と認める方向で判断されることになります。




 例えば、建設現場で作業方法について他社の従業員と意見が対立し、口論になった末に相手から殴られたようなケースにおいては、「その資材をそこに置くな」、「こちらの作業ができない」、「危険だから作業を止めてくれ」といった、現場の作業をめぐるやり取りから暴行に発展したのであれば、たとえ暴行そのものが相手方の個人的な故意による行為であっても、その発端が業務上のやり取りにあるのであれば、業務との関連性は十分に認められます。相手が自社の上司や同僚ではなく、別会社の従業員であることも、それ自体は労災認定を妨げる事情にはなりません。労災保険で問題になるのは、加害者と被害者が同じ会社に所属しているかではなく、被災した労働者の怪我が業務に起因しているかだからです。




 ただし、仕事とは無関係な個人的な恨みによる暴行では結論が変わってきます。例えば、被害者と加害者が以前から私生活上の金銭トラブルを抱えていて、たまたま同じ建設現場で働いていたところ、加害者がそのトラブルを理由に被害者を殴ったというような場合です。これは、建設現場で仕事をしていたことが暴行の原因なのではなく、私生活上のトラブルが現場に持ち込まれたにすぎません。このような個人的なうらみによる第三者からの暴行については、労働局も業務災害と認められない場合として明示しています。同様に、自招行為についても除外されているので、被害者自身が積極的にけんかを仕掛けた場合なども業務起因性が認められない可能性があります。単に口論になったとか、被害者側にも多少強い言葉があったというだけで、直ちに労災を認められないわけではありませんが、暴行に至った経緯は具体的に確認する必要があります。



 労災申請にあたっては、暴行の発生経緯をできるだけ具体的に明らかにすることが必要となります。警察に被害届を提出しているのであれば、その際に説明した内容も資料となりますし、現場を目撃していた他の作業員がいれば、その証言も有力な資料になります。元請会社や現場責任者に事故報告書が提出されているのであれば、その内容も確認しておきたいところです。場合によっては、防犯カメラの映像、現場で交わされたメールやメッセージ、作業日報などが残っていることもあります。ちなみに、会社が、これは他社の従業員との喧嘩だから労災ではないと主張したとしても、労災に該当するかどうかを最終的に判断するのは会社ではなく、労働基準監督署長です。会社が事業主証明を拒否していても、労災請求そのものは可能です。前述のように、作業方法、現場での指示、資材の置き場所、安全上の注意、作業の順番など、業務上のやり取りをきっかけとして暴行を受けたのであれば、労災と認められる可能性は十分にあります。反対に、私生活上の恨みや金銭問題など、業務とは無関係な事情による暴行なのであれば、労災として認められることは難しいということです。



 本件のように、他社の従業員から暴行を受けたようなケースでは、第三者行為災害になることにも注意が必要です。第三者行為災害とは、業務災害や通勤災害について、労災保険関係の外にいる第三者の不法行為によって被災した場合をいいます。他社の従業員による暴行がこれに当たる場合、被害者は労災保険給付を請求すると同時に、暴行した本人に対して民法上の損害賠償を請求することも考えられます。同じ損害について労災保険と加害者からの損害賠償を二重に受け取ることはできないので、労災保険から給付を受けた場合には、政府が一定の範囲で加害者に求償したり、先に加害者から損害賠償を受けていれば労災保険給付が調整されたりすることがあります。この点では、交通事故で労災保険を利用する場合と似た構造になっています。


令和8年10月3日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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