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2026/10/02
各種保険

長時間労働等の影響によりうつ病になり、働くことができなくなりました。収入も途絶えたので生活に困窮していて、こんな場合に使える有効な手続きがあれば教えてほしいです



 長時間労働等によるうつ病が業務上の疾病と認定され、療養のため働くことができず、賃金を受けられない場合、労災保険の休業補償給付を受けることができます。休業4日目から、1日につき給付基礎日額の60%の休業補償給付と20%の休業特別支給金、合計80%相当が支給されますので、長期的な生活保障の中心となるのは、まず労災保険ということになります。ただし、精神障害の労災申請では、発病前の労働時間、職場での出来事、心理的負荷の程度などについて調査が行われるため、調査に一定の時間を要し、申請した翌月から当然に給付が始まる訳ではありません。問題はその支給決定までをどう乗り切るかで、その場合に検討対象となるのが健康保険の傷病手当金です。




 傷病手当金は本来、業務外の病気やけがによって働けず、給与を受けられない場合の所得保障制度なので、最終的にうつ病が業務上の疾病と認定されれば、同じ期間について労災の休業補償給付と傷病手当金を二重に受給することはできませんが、労災申請をした以上、労災の結論が出るまで傷病手当金も一切受けられないという訳ではありません。協会けんぽでは、労災保険の休業補償給付の決定に時間を要する場合、後に労災給付が決定したときは傷病手当金を返納することに同意したうえで、いったん傷病手当金を支給する取扱いがされています。うつ病で半年間働けず、労災認定まで半年を要するとした場合において、この間まったく収入がないのと、傷病手当金によって一定の所得を確保できるのとでは、生活への影響が全く違います。


 
 傷病手当金だけでは生活費が不足するという場合には、会社に対し直接、損害賠償請求することも検討する必要があります。会社が恒常的な長時間労働を認識しながら放置していた、あるいは深刻なパワーハラスメントを把握しながら適切な措置をとらなかった結果、労働者がうつ病を発症して働けなくなったという場合であれば、会社に対し安全配慮義務違反などを理由とする損害賠償請求をすることも可能となります。場合によっては、民法536条2項による賃金請求を検討する余地もあります。同項は、債権者(会社)の責めに帰すべき事由によって働けなくなった場合において、労働者は賃金を受ける権利を失わないとされていて、就労不能について会社側に帰責事由があることが要件となっています。ですので、うつ病が労災と認定されたからといって、当然に民法536条2項に基づく賃金請求権が発生するわけではないに注意が必要です。




 裁判する場合、判決まで一定の時間がかかることから、生活費を確保するという目的からすると十分ではありません。会社に対する賃金請求権が相当程度認められる可能性があり、しかも生活が切迫しているのであれば、賃金仮払いの仮処分も重要な選択肢になります。これは、会社に対する賃金請求訴訟の判決が確定するまで待つのではなく、民事保全手続によって、当面の生活に必要な賃金を暫定的に支払わせることを求めるものです。この手続きでは、会社に対する賃金請求権の存在及び保全の必要性を示す必要があり、会社側の帰責事由によって就労不能となったため民法536条2項に基づく賃金請求権があることや、判決まで待っていたのでは生活を維持できないことを示す必要があります。その際、預貯金の残高、毎月の家賃や生活費の額、同居家族に収入があるかといった生活状況も重要な資料になり、既に傷病手当金によって一定の生活費が確保されているのであれば、保全の必要性を判断する際に考慮されることになります。




 ご質問者様のケースでいうと、まずは労災申請を行い、将来的な休業補償給付の確保を目指した上で、その認定までの空白期間については、健康保険者と相談して傷病手当金による暫定的な所得保障が可能か確認する。それでも生活維持が困難であり、会社側の帰責事由を基礎とする賃金請求権を疎明できる事案であれば、賃金仮払いの仮処分を検討する。同時に、安全配慮義務違反等に基づく損害賠償請求の訴訟提起も検討するといった複線的な対応が必要となります。長時間労働によって心身を壊した労働者にとって、最終的な裁判に勝つことだけが解決ではありません。半年後に労災給付や損害賠償を受けられたとしても、それまで生活できなければ困ります。労災保険、傷病手当金、賃金仮払いの仮処分はそれぞれ役割が異なるので、必要に応じてそれぞれの制度を組み合わせることが、収入を失った労働者を支えるためには重要となります。



令和8年10月2日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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