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出産した従業員からこのような申し出があったら、これまでにあまり例がない場合、会社としてどこまで応じなければならないのか迷われるのではないでしょうか。心情的には、できるだけ希望を叶えてあげたいと思う反面、適正な人材配置の要請もあり、従業員の要望を全て叶えることなどできないという現実もあります。ご質問に関しては、従業員が希望したという理由だけでは、会社に直ちに内勤へ配置転換する義務が生じるというわけではありません。ただし、現在の育児・介護休業法では、従業員の意向を聞き、その事情に配慮することが会社に求められていますので、営業職として採用したのだから無理ですと一律に断る対応をすることには注意が必要です。
厚生労働省が公表している「育児・介護休業法に基づく「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」では、育児休業後について、原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮することとされています。ですので、会社側が勝手に、子どもがいるから外回りは難しいだろうと判断し、本人の希望とは無関係に仕事を変えてしまうことは避けるべきで、原則、従前の仕事への復帰を前提に考えることが基本となります。
ただ、ご質問のケースでは、従業員自身が内勤への変更を希望されています。この点に関しては、育児・介護休業法上の「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」についての規定が参考となります。同法では、本人または配偶者から妊娠・出産等の申出があったときや、子が3歳になる前の一定の時期に、会社が仕事と育児の両立について従業員の意向を個別に聴取することを義務付けています。聴取すべき事項には、勤務時間帯、勤務地、両立支援制度等の利用期間の他、仕事と育児の両立に資する就業の条件が含まれていて、具体的には業務量や労働条件の見直しなども想定されています。聴取した意向については、会社は、自社の状況に応じて配慮する必要が生じます。
ですので、外回り営業では保育園への送迎が難しい、遠方への訪問が多く、迎えの時間に間に合わないと従業員から言われた場合は、会社としては、その具体的事情を確認したうえで、内勤への変更を含めて対応可能性を検討する必要が出てきます。ただし、従業員の希望をそのまま実現するまでの義務はなく、何らかの措置を行うか否かは、事業主が自社の状況に応じて決定することになります。仮に、希望どおりの対応が難しい場合には、その理由を説明するなど丁寧な対応を行うことが必要でしょう。
本件で言うと、内勤のポストが存在しない、営業職と内勤職で必要な能力や人員配置が大きく異なる、他の従業員との業務分担上困難である、といった合理的な事情があれば、会社が希望どおりの配置転換を行わないこともあり得ます。ただし、内勤にはできないというだけで検討を終えるのではなく、外回り営業を続けながら負担を軽減できないかを考えることも重要です。例えば、訪問先のエリアを限定する、夕方のアポイントを減らす、直行直帰を認める、オンライン商談を増やす、担当顧客数や業務量を調整するといった方法で、厚生労働省も、個別の意向への配慮の具体例として、勤務時間帯・勤務地の調整や業務量の調整などを挙げています。子が3歳未満であれば、育児のための所定労働時間の短縮措置についても確認することも必要となります。
今回のご質問で気になるのが、本人がしんどいと述べている理由についてです。単に育児との時間的な両立が難しいという意味なのか、それとも出産後の体調に問題があるのかによって法律上の扱いが変わる可能性があります。仮に、出産後1年以内の女性が健康診査等を受け、医師等から勤務を軽減するよう指導を受けているのであれば、会社には、男女雇用機会均等法上の措置として、勤務時間の変更や勤務の軽減等、必要な措置を講じる義務が生じ、この場合、単なる配置希望として処理するのではなく、医師等の指導内容を確認する必要があります。
従業員から配転希望を聞いた会社としては、まずは、なぜ外回りが難しいのか、保育時間など育児上の制約なのか、健康上の問題なのか、どのような働き方であれば継続できるのかを、従業員と面談して具体的に確認することが重要です。その上で、内勤への配置転換までしなくても、営業エリア・訪問時間・業務量の軽減、短時間勤務その他の両立支援制度の利用によって解決できないか、具体的に検討すべきでしょう。会社には、従業員から希望された内勤への配置転換をそのまま受け入れる義務があるわけではありませんが、仕事と育児の両立に関する本人の意向を聴き、会社の事情に応じて実質的に検討・配慮することは、現在の育児・介護休業法上、会社に求められている重要な対応です。希望どおりにする義務はないからといって、希望を全く検討しなくてよい訳ではありません。どのような勤務条件が本人にとっても、また、会社にとっても望ましいのか、労使間で十分なコミュニケーションを図ることが必要であることは言うまでもありません。
令和8年9月11日
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹