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労働契約書に勤務地(大阪市)などと記載されている社員について、会社は東京など他地域への転勤を命じることができるか、この場合にポイントとなるのは、単に現在の勤務地が大阪と記載されているだけなのか、それとも勤務地を大阪に限定するという労働契約上の合意が成立しているのかという点です。労働条件通知書に就業場所:大阪本社と記載されていても、それが単に採用時点での勤務場所を示しただけなのか、将来にわたって勤務地を大阪に限定する趣旨なのかは別問題です。どちらの趣旨と解するのかは、契約書の文言だけでなく、採用時の説明、求人票、就業規則の転勤規定、過去の転勤実績、勤務地限定社員という雇用区分の有無などを総合して判断することになります。
一方で、勤務地限定合意がなく、労働協約や就業規則に転勤を命じることができる旨の定めがあるような場合であれば、会社には従業員の個別的同意なしに転勤を命じる権限があるとされています。ただし、業務上の必要性がない場合、不当な動機・目的がある場合、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合などには、そのような転勤命令は権利濫用として無効となるとされています。
本件のように勤務地限定合意がある場合は、転勤命令権はあるが、今回の行使が権利濫用にあたらないかという問題ではなく、そもそも会社に大阪以外への転勤を一方的に命じる契約上の権限があるのかという点が問題となります。勤務地限定合意によってその権限が与えられていない場合、事業上の必要性が非常に高いというだけで転勤命令が可能になるわけではなく、原則として、会社に転勤を命じる権限は認められません。
その場合、労働契約法8条は、労働者と使用者がその合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができると定めていて、仮に、勤務地を大阪に限定することが労働契約の内容となっていれば、東京への転勤は契約内容そのものの変更になるので、原則として労働者本人の同意が必要となります。大阪限定の契約だった社員に東京勤務の必要性を粘り強く説明し、転居費用、住宅手当、給与その他の条件を提示したうえで本人が真に自由な意思に基づき同意すれば勤務地の変更は可能ではあります。後日の紛争を防ぐためには、同意は書面で取得しておくことが望ましいですが、書面があっても本人の自由な意思に基づく同意でなければ有効とはならない点に注意が必要です。
従業員の同意を得られない場合に、就業規則の変更によって勤務地限定を撤廃できないかという問題もありますが、これは簡単ではありません。個別の労働契約で明確に勤務地は大阪に限定すると合意しているような場合、就業規則に後から転勤条項を追加すれば全国転勤を命じることが可能になるわけではありません。労働契約法10条は、就業規則の変更による労働条件変更について、労働契約において就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分を別扱いとしています。ですので、勤務地限定合意が明確なケースでは、就業規則を変更して新たに転勤条項を新設したとしても、限定合意している従業員の労働条件となる可能性は基本的にはないと考えておいた方がよいでしょう。
判断が難しいのが、勤務地として限定されていた事業所自体が廃止される場合です。例えば大阪勤務限定社員について大阪事業所を廃止し、東京にしか事業所がなくなるようなケースです。この場合でも、大阪事業所がなくなったから当然に東京への転勤命令権が発生するとはなりません。会社としては、まず東京勤務への契約変更について本人と協議することになりますが、それでも合意できず、大阪での雇用継続も不可能なのであれば、問題は東京への転勤命令ができるかというより、勤務地限定契約を維持したまま雇用を継続できない場合に、労働契約を終了させることができるかという問題になります。すなわち、労働契約法16条に基づく解雇の有効性、具体的には、整理解雇法理との関係を検討することになります。
勤務地限定社員のいる事業所を廃止する場合には、①勤務地限定合意の内容を確認する、②勤務地変更について個別に協議する、③雇用継続の代替策を検討する、④それでも継続できない場合に解雇の有効性を検討するという順序で考えることが重要です。
令和8年9月5日
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹