Column
コラム
  1. トップ
  2. コラム
  3. 弊社は古い体質の会社で、昨今問題になっているセクハラ等に関するルールが何もなく、相談窓口もなければ、社員研修が行われたこともありません。このような状態を続けているとどのようなリスクを負うことになるのでしょうか
2026/09/03
ハラスメント

弊社は古い体質の会社で、昨今問題になっているセクハラ等に関するルールが何もなく、相談窓口もなければ、社員研修が行われたこともありません。このような状態を続けているとどのようなリスクを負うことになるのでしょうか







 長く続いている会社ほどこういった状態がありえます。何かあればその時に上司に相談すればよい。社員同士の問題に会社が細かく口を出す必要もない。昔からそれでやってきたしこれまでもなんの問題も起きていない・・。そのような考えの社長の姿が目に浮かびます。言うまでもなく、現在の法律では、セクハラが起きたらその時に上司が対応するというだけでは足りません。男女雇用機会均等法では、職場におけるセクハラについて、会社は必要な雇用管理上の措置を講じなければならないとされていて、会社としてセクハラを許さない方針を明確にし、それを社員に知らせること、相談できる体制を整えること、相談があれば事実関係を確認して適切に対応することなどが必要とされています。




 仮に、具体的なセクハラ事件が起きていなくても、会社として何の体制も整えていなければ、それ自体が問題になりかねません。相談窓口がないから罰金、社員研修をしていないから直ちに違法という訳ではありませんが、必要な措置を講じていない会社に対しては、行政による助言、指導、勧告などが行われることがありますし、勧告に従わない会社は会社名が公表される可能性もあります。相談窓口は単なる苦情受付係ではなく、問題を早い段階で会社が把握し、決められた手順で処理するための入口となるものです。窓口がなければ、社員は直属の上司に相談するしかなく。もしかするとその上司自身が当事者かもしれませんし、その上司と対象とされる社員との関係もあり、まあまあで話を終わらせてしまうかもしれません。そうしているうちに社員が休職し、退職し、ある日突然、会社に弁護士から通知書が届く。そこで初めて経営者が事情を知るということにもなりかねません。




 実際にセクハラが発生してしまった、例えば、上司が部下に性的な発言を繰り返し、被害を受けた社員から損害賠償請求された場合、当然、セクハラをした本人については不法行為責任が問題になりますが、責任を問われるのは本人だけとは限りません。行為の内容や職務との関係によっては、会社についても使用者責任が問題になります。会社が以前から問題を把握していたのに放置していた、相談を受けても十分な調査をしなかった、被害を受けた社員を適切に保護しなかったという事情があれば、会社自身の不法行為責任や安全配慮義務違反が問題になりえます。その際、セクハラに関する規程がなにもない、相談窓口がない、研修をしていないという事情が効いてきます。






 会社としては、そんなことが行われているとは聞いてないし、あのまじめな社員がそんなことをするなんて予想だにしなかったなどと反論することになるのかもしれませんが、相談窓口すらなく、社員に相談方法も知らせていなかったのであれば、知らなかったというより、そもそも会社が問題を知るための仕組みを作っていなかっただけじゃないかという話になりがちです。もちろん、男女雇用機会均等法上の措置義務を十分に果たしていなかったからといって、それだけで被害者に対する損害賠償責任が当然に成立するわけではありません。法律が会社にセクハラ防止のための体制整備を求めることと、実際に被害を受けた社員との関係で会社に損害賠償責任が生じることは別の問題ではありますが、法律上求められている体制すら整えていなかったという事実は、実際に事件が起きたとき、会社が必要な注意を尽くしていたのかを考えるうえで無視できない事情になることは覚悟しておくべきです。






 あと、セクハラが発覚した後の会社の対応も重要です。被害を訴えた社員から相談を受けた際、その程度のことは昔からよくあることだし社会人として我慢せなあかんよ、お酒も入っていたし悪気はなかったんだろうなどとまじめに取り合わなければ、会社の事後対応そのものが問題にされます。ちゃんと行為者とされた社員、周囲の関係者らから事情を聴いて、何があったのかを確認する必要があります。逆に、十分な調査をしないまま懲戒処分などすれば、今度はその処分の有効性を争われることにもなります。



 

 セクハラ対策というと、社員を縛るための規則を作る話のように思われがちですが、そうではありません。会社として何を許さないのか。困ったときには誰に相談するのか。相談があれば誰が調査するのか。事実が確認された場合にはどう対応するのか。こうした手順を、問題が起きる前に決めておくことが大切です。これまでセクハラ問題は起きていないという会社ほど信用できない会社はありません。相談する適当な場所がなかったので会社が知らなかっただけの可能性もあるでしょう。規程もない、相談窓口もない、研修もしたことがない、3つとも当てはまるのであれば、問題が表面化していない今のうちに、一度会社の体制を見直しておくべきです。セクハラ対策は、被害者を守るためのものであるだけではなく、問題を早く見つけ、会社自身が法的責任を負わないためにも必要な仕組みであることを理解する必要があります。



令和8年9月3日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

問い合わせ 矢印