Column
コラム
  1. トップ
  2. コラム
  3. 会社からの業務命令ってどこまで従わないといけないのでしょうか。納得できない命令が多くあるので知っておきたいです
2026/08/06
その他(労務関連)

会社からの業務命令ってどこまで従わないといけないのでしょうか。納得できない命令が多くあるので知っておきたいです





 確かに、会社で働いていると、これってほんとうに従わないといけないのかと疑問を抱くような命令を受けることがよくあります。急な配置転換、転勤命令、出向命令、休日出勤の指示、長期間の自宅待機命令、秘密保持命令・・、細かい話になってくると、作業方法の指示、日報・報告書の提出命令、会議への出席命令、他部署の応援業務命令、保護具着用命令、健康診断受診命令、ストレスチェック受検命令、制服着用命令、身だしなみの指示、ハラスメント防止研修受講命令等々・・、これらの命令の具体的な内容や言い方によっては、従業員としては納得できない、パワハラちゃうんかと感じることも多々あると思います。業務命令という言葉には強い響きがあり、一度命令された以上、どのような内容であっても従わなければならないと思っている人も少なくありません。たしかに、労働契約を締結した労働者には、会社の適法な業務命令に従う義務はありますが、会社が出すすべての命令が当然に有効となるわけではありません。業務命令にも法律上の限界があり、その範囲を超える命令には従う義務がない場合もあります。





 業務命令とは、会社が労働契約に基づいて労働者に対し、業務の遂行方法や勤務場所、勤務時間などについて具体的な指示を行うことをいいます。労働契約を締結すると、労働者は労務を提供し、使用者は賃金を支払う義務を負います。労働者の労務提供を実現するため、使用者には一定の範囲で労働者を指揮監督する権限、いわゆる指揮命令権が認められていますが、この指揮命令権は無制限ではありません。労働契約法3条4項は、「労働者及び使用者は、・・信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」と規定していますし、5項では、「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない」と規定しています。




 具体的にどのような命令であれば違法と評価されるのでしょうか。一般的には、業務上の必要性が認められること、命令の目的が正当であること、その内容が合理的であること、そして労働者に通常甘受すべき程度を超える不利益を与えないことなどを総合的に判断しています。例えば、繁忙期に一定時間の残業を命じることは、36協定の締結や労働基準法の上限規制などの法令を遵守している限り、適法な業務命令となります。人員配置の見直しに伴う担当業務の変更や部署異動も、業務上の必要性があり、労働契約の範囲内で行われる限り、有効と判断されることが多いでしょう。一方で、会社から売上を水増しするよう命じられたり、労働基準法違反となる虚偽の労働時間記録を作成するよう指示されたりしたとしても、そのような命令は適法な業務命令とはいえないので、労働者は応じる義務はなく、命令を拒否したことを理由に不利益な取扱いをすることも許されません。また、不正行為の調査やハラスメント調査のため、一時的に自宅待機を命じること自体は、業務上の必要性が認められる場合がありますが、合理的な理由もなく何か月にもわたり自宅待機を継続したり、事実上の懲戒処分として利用したりするような運用は、指揮命令権の濫用と評価される可能性が高いでしょう。





 従業員が納得できないと感じた場合、命令を拒否しても問題ないのでしょうか。例えば、自分は営業より企画の仕事を希望しているにもかかわらず営業部への異動を命じられた場合、その命令に不満を持つことは自然な感情ではありますが、業務上の必要性があり、労働契約上も異動が予定されているのであれば、納得できないという理由だけで命令を拒否すると、業務命令違反として懲戒処分の対象となる可能性があります。特に、繰り返し命令を拒否したり、業務運営に重大な支障を生じさせたりした場合には、懲戒解雇になるリスクもあります。そのため、命令に疑問を感じたとしても、直ちに拒否することが常に適切とは限りません。




 命令が違法かどうか直ちに判断することが難しい場合は、とりあえず異議を留保した上で従っておいた方がよいかもしれません。場合によっては、労働組合や弁護士などに相談し、命令の適法性を検討することが必要な場合もあるでしょう。一方で、明らかな法令違反を命じられた場合や、生命・身体に重大な危険が及ぶ業務を安全配慮義務に反して命じられたような場合、あるいは人格権を著しく侵害するような命令については、従うこと自体が重大な不利益につながりかねないので、とりあえず従っておくという対応ではなく、その場で命令を拒否することが必要ともいえます。




 業務命令だから絶対に従わなければならないという考え方も、納得できないから従わなくてよいという考え方も、どちらも極端な考え方で正確ではありません。大事なことは、その命令が労働契約や就業規則に基づくものか、業務上の必要性があるか、法令や公序良俗に反していないか、そして労働者に過大な不利益を与えるものではないかという観点から冷静に検討することです。業務命令は企業が業務を遂行していく上で不可欠なものではありますが、あくまでも労働者が使用者との労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項に限って認められる権限です。労働者は、適法な業務命令には誠実に従う義務がある一方、違法又は権利濫用に当たる命令まで受け入れる義務はありませんが、違法か否かは判断することはできても、権利濫用に当たるか否かはなかなか判断するのが難しいのが実情でしょう。濫用だとして命令に従わないことを繰り返していると、最後には解雇されます。その段階で、解雇は無効だと争うこともできなくはありませんが、認めてもらうことは決して簡単なことではありません。


令和8年8月6日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

問い合わせ 矢印